●不起立で再任用拒否職員会議は連絡伝達だけ

 再任用は、年金受給開始が5年先に延びた分、無収入期間が発生しないよう雇用と年金を接続する生活権の保障制度。民間企業に対しては高年齢者雇用安定法の改正で、年金受給開始年齢までの希望者は継続雇用を認められるようになったが、法的根拠のない公務員については、総務省通知で同様の措置が講じられてきた。

 それゆえか、府教委が「不合格」とした理由は「総合的判断」。そして校長は、非常勤講師としての継続雇用を申し出た。常勤の再任用と比べれば労働条件は下がるが、生活の糧を得られる代替措置を提案することは学校長として最善手を模索した末のことだろう。距離的に近いもう一つの府立高校でも社会科の非常勤講師の枠が空き、岩谷さんはこの4月から2校で非常勤講師として再スタートを切るはずだった。時間割も決まり、始業式直前の4月6日には教科書も受け取った。ところが同日午後、校長から携帯に電話がかかってきた。

「府教委の意向であなたを非常勤でも雇えなくなりました」

 もう一校にも確認の電話を入れてみると、同様の理由でドタキャンされた。

「教職員組合を通じて府教委には抗議をしましたが、何のリアクションもありません。自分の状況を改善することはもはや望めないのかと諦めの気持ちもありますが、行政の一部とはいえ、教育機関がここまで徹底して見せしめのような処分をするということを多くの方に知ってほしい」(岩谷さん)

 大阪府の「再任用教職員採用審査会」議事録を見ると、理由は明らか。12年度からの6年間で再任用不合格になった懲戒処分者9人のうち7人が「君が代不起立」による戒告処分者だ。驚いたことに、体罰や飲酒運転容疑で停職などの重い懲戒処分を受けた教員でも採用を認められているにもかかわらず、である。

 この春再任用を拒否されたもう一人が、理科教師の梅原聡さん(61)だ。在籍していた学校は守口市内で岩谷さんと異なるが、同じように3年生の学年主任だった12年3月の卒業式で君が代斉唱時に着席、戒告処分を受けていた。梅原さんは、自主性や考える気風を失い、士気の下がった教育現場そのものをこう嘆いた。

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