■衰えない人気と影響力疲弊し追い込まれる教員

「大阪市民は年間2200億円分の『財源』と『権限』を失う」「府に吸い上げられる2200億円は様々に『流用』され、大阪市民への行政サービスが低下するおそれがある」「特別区の人口比は東京7割、大阪3割だから大阪には東京のような『大都市行政』は困難」

 都構想にこうした反対の論陣を張っていた京都大学大学院工学研究科の藤井聡教授の奉職先である京大の総長に「税金が投入されている大学の教授としてどうなのか。回答次第では国会で取り上げる」と圧力をかけたにとどまらず、藤井氏がコメンテーターとして出演していた在阪民放各局に、「放送法4条に反する」などとして藤井氏を出演させないよう求める文書まで送りつけた。

 藤井氏に賛同した様々な分野の108人の研究者が、都構想の危険性を指摘して反論を展開、15年5月には一部が記者会見までしてダメ出しをした。しかし、これを大々的に報じたメディアはほとんどなかった。維新にとって「不都合な真実」は、対東京へのアンチテーゼとして「共依存」とも言える在阪メディアにとっても「不都合」だったのかもしれない。『誰が「橋下徹」をつくったか─大阪都構想とメディアの迷走』の著者・松本創氏は言う。

「藤井氏らの指摘で都構想のメッキが剥がれ、住民投票では否決、橋下氏も引退した。東京からは終わった話に見えるだろうが、彼の人気や影響力は衰えていない。都構想は再び動き始め、強弁や詭弁で相手を攻撃する論法が広まっている。橋下氏に共感し、再登場を期待する記者も多いけれど、彼の実績や言動を立ち止まって検証する動きはほとんどない。だから、いまだに彼の改革者像や『無駄な二重行政』というイメージが生き続けているんだと思います」

 維新はメディアのコントロールとともに、大阪府内の私立高校教育の無償化を10年度から始め、大学まで含めた教育無償化を基本政策として提唱、教育改革に成果を上げてきた。その一方で国旗国歌条例を制定、厳しい管理で締め付けてきた教育現場は疲弊した。教員たちは追い込まれ、生徒も自主性を失いつつある。(編集部・大平誠)

AERA 2017年6月5日号