「リカちゃんキャッスルのちいさなおみせ」。リカちゃんキャッスルは福島にある、リカちゃんのミュージアムを併設した工場で、人形の製造工程も見られる人気スポットだ。独自仕様のリカちゃんも販売しており、14年、大人のためのドールショップをコンセプトに東京・人形町に「ちいさなおみせ」をオープンした。
店を訪ねると服はハンガーにかけられ、靴や小物もお菓子のようにきれいに並べられている。値札を見ると、手のひらにおさまるようなサイズのTシャツが千円近くするなど、人間の服と大差ないものも。しかし店内にいた30代、40代の女性客たちは人形や服、小物などをカゴにどんどん入れて大人買いしていた。
●守られた女子の聖域
「かわいい人形や服の情報はインスタを通じてあっという間に広まる。すぐ売り切れて手に入らなくなることも増えました」
かいりさんはそうぼやく。リカちゃんインスタの人気が一般の人たちにも広まったのに加え、中国や韓国などからもバイヤーが買い付けに来るようになったからだという。
もうひとつの聖地は東京・浅草橋にある。93年からジェニーやリカちゃんなどを販売してきた人形専門店TOTOCOだ。問屋を営んでいたこともあって、この店ではデッドストックを当時の価格で買うことができる。店長の野口栄一さん(68)は言う。
「子どものとき遊んだリカちゃんが欲しいと、お子さんと来られるお母さんが最近多いです」
ネットの中古品の売買では現物を見て確認することができないうえ、人気商品の価格は高騰する。安心を求めて訪れる人たちが後を絶たない。人形好きの野口さんの豊富な知識と人柄に惹かれて常連になる客も少なくないようだ。
それにしても、大人がなぜリカちゃんにこうもはまるのだろう? TOTOCOに夫婦で来店していた女性客は語る。
「ある程度の年齢になると、人形遊びから卒業しないといけないような雰囲気があって遊ばなくなりました。でもネットを見ると、大人でも楽しんでいる人がいっぱいいて。あ、いいんだと思いました。好きなものは何歳になっても好きなんだと思います。飾っていて癒やされます」
先のtoyoさんもリカちゃんを見ていると癒やされるという。
「リカちゃんはいつもかわいくて、なんでもウェルカムで、意地悪とかもない。子どものころから親しんだリカちゃんには、安心感があるんです」
自らも小学生のときリカちゃんで遊んだ、精神科医の香山リカさんは、大人がはまる理由を次のように分析する。
「リカちゃんは女の子と等身大のキャラだけれど、リアルすぎない。男性の萌えの対象にならず、性的なまなざしから守られている健全さや安心感もある。だから時代を超えて愛され、大人になっても癒やされるのだと思います。大人になったからといって、常に“女性”として見られるのは疲れる。そうしたことから離れ、守られた女子の聖域の中でホッとしたいというのがあるのだと思います」
永遠の11歳は年齢や体形などの俗世の悩みとも無縁。いくつになっても女の子の世界に羽ばたかせてくれる。終わらないリカちゃん。文字通り、永遠のものとなっている。(編集部・石田かおる)
※AERA 2017年5月15日号