イギリスはまずい、は過去の話だ。極上の食材を育む自然、情熱的な生産者、賢明な選択のできる消費者。ブレグジットに揺れる中、違ったイギリスが見えてくる。4回目は、日本でも人気のカリスマシェフ、ジェイミー・オリバーの活動を紹介。
* * *
美食の街、コーンウォール、デヴォンといえば、カリスマシェフたちの存在も欠かせないだろう。リック・スタイン、ネイサン・アウトロー、ポール・エインズワース、ミッチ・トンクスといったテレビでもおなじみのシェフたちのレストランが、このエリアにある。そして世界的にも知られる有名シェフのレストランも。
ニューキーのビーチサイドに立つジェイミー・オリバーのレストラン「フィフティーン」はただおいしいだけのレストランではない。社会からこぼれ落ちた若者を受け入れ、シェフとして育てる社会貢献プログラムを提供しているのだ。レストランの利益はすべて地元のチャリティー団体に寄付され、これらのプログラムの運営に使われる。
この見習いプログラムは、もともとロンドンで02年に始まったもので、その様子はテレビ番組にもなった。さまざまな理由で学校を中退したり失業したりして、人生のスタートをうまく切ることができなかった16歳から24歳の若者たち。彼らを16カ月のプログラムを通して、一人前のシェフとして、そして社会人として人生をやり直せるように育てる。地方議会で働いていた女性が、「コーンウォールにもこのプログラムが必要だ」とジェイミーに直談判し、06年にレストラン・フィフティーンがオープンした。
キッチンで働く見習いシェフたちに、まるで父親のような笑顔で話しかけているのは、トレーニング担当シェフのカール・ジョーンズさん。10年前、このプログラムがコーンウォールで始まることを知り、その理念に心を打たれ、指導役を志願したという。
「これまで130人以上の若者の指導にあたってきました。大変なことも多いですが、彼らがセカンドチャンスを得て成長していく様子を見るのは、とても感慨深いです」
ドラッグやアルコールなどの問題を抱える若者も多い。失敗を繰り返さないようにソーシャルワーカーがついて一人ひとりの状況をきめ細かくケアする。食を通じて、チームワーク、自律、情熱を取り戻した若者たちは、フードビジネスに居場所を見つけ、活躍を続ける人も多い。
AERA 2017年4月24日号