辞令一つでどこへでも。勤め人を翻弄し、家族を振り回してきた転勤。育児や介護、病気などさまざまな事情を抱える従業員が増え、旧態依然の制度は見直しを迫られている。最前線のワーママの実情は。
育休中の30代女性の携帯が鳴った。上司からだ。
「希望していた東京復帰は難しそうだ。元の勤務地でどうか」
そんな今さら。保育園申請の締め切り後なのに、どうしよう。
女性は新卒で大手メディアに入社し、10年余りで4回転勤してきた。地方都市に赴任中、第1子を妊娠し、産休に入って夫の住む東京に転居。上司には育休復帰後は東京で勤務したいと伝えて了承も得ていた。
元の勤務地の保育所の1次募集はすでに締め切られ、実家にも頼めない。悩んで人事部に相談したところ、東京勤務はかなったが、キャリアを積んだ元の職種以外での配属となった。
●1週間以内の打診8%
企業は就業規則などで定められた「配転命令権」に基づき、労働者の同意なしに転勤を命じることができる。だが、子育てや介護などさまざまな事情を抱える社員も増えている今、これまでのように一律に転勤辞令を出す制度は限界にきている。
たとえば未就学児を育てる共働き世帯で、子ども帯同で転勤する場合。転勤先で保育園探しが必須だが、新年度入所の認可保育所の申し込み締め切りは一般的に前年11~12月だ。ところが転勤の打診時期は多くが直前。労働政策研究・研修機構の企業調査では1カ月以内が56.4%で、1週間以内も8.2%もいた。1週間で仕事の引き継ぎや引っ越しに加え、保活も一からというのはあまりに非現実的だ。
同調査では過去3年間で配偶者の転勤を理由に退職した人がいるという企業が33.8%だった。労働力人口の減少が課題の社会で大きな損失だ。単身赴任を選んでも、妻か夫どちらかが、働きながら、一人で家事も育児もこなす「ワンオペ」生活が待ち受ける。
こうした実情を背景に、国も3月末、企業が転勤で配慮すべきポイントをまとめ、公表した。労働者の事情や意向をくみ取る仕組みをつくることや、時間的余裕をもって転勤を告知することなどが盛り込まれている。