沈まぬはずの“電機の巨艦”が1兆円超の巨額損失の渦に飲み込まれようとしている。原因は原発事業の失敗だ。成長期や昭和のニッポンを力強く牽引し、明日は今日より豊かな生活をもたらした名門企業で、一体何が起こったのか。そのとき社員や関係者は何を見て、どう感じたのか。そして何が元凶だったのか。AERA 2017年4月17日号では「苦境の東芝」を大特集。関係者証言やジャーナリストの分析で全貌に迫った。
日本軍の組織的欠陥を解き明かし、発刊から30年を経て読み継がれる名著『失敗の本質』。共著者の一人は、東芝という組織の中に、日本軍と驚くほどの類似性を読み取る。
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ビジネスパーソンが「座右の書」として挙げることの多い『失敗の本質──日本軍の組織論的研究』(中公文庫)。人気の秘密は、先の大戦を戦略と組織の視点から分析している点にある。同書はノモンハン事件、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテ、沖縄という各作戦の失敗を、組織としての日本軍の失敗と捉え直し、日本型組織に共通する欠陥を浮き彫りにした。1984年、同書を世に問うた執筆者6人は、
「現代の組織にとっての教訓、あるいは反面教師として活用することが最も大きなねらい」
と記した。それから30年あまり。日本を代表する企業、東芝が消滅の危機に瀕している。
●失敗の責任者が昇格
「東芝は日本軍の組織的な欠陥を克服することなく、相当程度に継承してしまった」
そう残念がるのは、同書の共同執筆者で経営学者の寺本義也さん(74)だ。現在もハリウッド大学院大学で教授として教壇に立つ。同教授によれば、東芝と日本軍は失敗の経緯や組織の特性まで共通点が多い。特に注目すべきは39年のノモンハン事件と、東芝による2006年のウェスチングハウス(WH)買収の類似性だという。
ノモンハン事件とは、当時の満州国の西北部で起きたモンゴルとの国境線をめぐる紛争。衝突を拡大しない方針をとっていた東京の参謀本部に対し、満州を管轄していた関東軍が独断でモンゴルの後ろ盾だったソ連軍と激突し、大敗北を喫した。寺本教授は言う。