こんなエピソードもある。14年、京阪電車に乗った皇太子(のちの昭和天皇)は、大正の広重と言われた鳥瞰(ちょうかん)図絵師・吉田初三郎の初の鳥瞰図「京阪電車御案内」を、「きれいでわかりやすい」と絶賛した。これを聞いた吉田は感激し、鉄道路線案内を含む名所図絵を数多く残した。

「昭和初期は、東京と北海道や九州などの往復に軍艦を用いるようになり、鉄道に乗る機会は減ります。御料車が最も活躍するのは、46~54年の戦後巡幸。主要駅前には奉迎場が設けられ、民衆が万歳して歓迎したことが『昭和天皇実録』に記されています。大阪鉄道局には、戦後の生活苦をはげます天皇と駅員の会話の記録も残っていました」(同)

 平成の時代に入って、JR東日本はE655系の新型お召し車両をつくった。過剰な警備を嫌う現天皇の意向もあり、菊の御紋が輝くお召し専用列車の運行は数回のみ。スペイン国王夫妻と一緒につくばエクスプレスの通勤電車を臨時列車にして乗車したこともある。

「鉄道と天皇の関係も、時代も変わったということでしょう」(同)

(編集部・澤志保)

AERA 2017年4月10日号

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