

中高一貫校の教育に変化が起きている。従来の5教科にはない、能動型の学びを取り入れる学校が増えてきているのだ。
「痛いし温泉に入れないし、入れ墨なんてやめたほうがいい」
いかつい進藤龍也牧師が発した一言で教室内が笑いに包まれる。東洋大学京北(文京区)の高校1年の哲学ゼミ「刑事裁判傍聴学習会」の一コマだ。講演した進藤牧師は、異色の経歴を持つ。高校を中退し暴力団の組員となって、覚醒剤の密売などで3度服役。最後の服役中に読んだ聖書がきっかけで改心し、出所後に洗礼を受けた。
「出所しても、更生の方法すらわからない人がいる。仕事に就けるかどうかで、その後の人生が変わってくる。セカンドチャンスを与える社会であってほしい」
同ゼミでは、高校生を対象に放課後や休日を利用して裁判傍聴を行っている。実際に被告人を目の当たりにした生徒たちは、進藤牧師に「どうして更生できたのか」と真剣な表情で尋ねていた。哲学教育推進部長の石川直実教諭は言う。
「哲学を机上の対話だけで終わらせたくない。『罪を犯したのだから償うのは当たり前』と思っていた生徒たちが、被告人の生い立ちを知り、涙にくれる家族を見て、そう単純なことではないと考えるようになります」
東洋大学京北は2015年から、哲学を中学の必修科目として取り入れた。石坂康倫校長が狙いをこう話す。
「(哲学者の)井上円了が創設した学校として、哲学を根底とした教育をしたい。哲学を通して思考力を深め、よりよく生きる糧にしてほしい」
●「俯瞰して見る目を」
哲学の授業は、教師や生徒が問いを立て、意見を交換するスタイルだ。ある日のクラスは浦島太郎がテーマ。なぜ太郎は玉手箱を開けたのか、乙姫は開けてはいけない玉手箱を渡したのか、そもそも竜宮城とはなんだったのか、議論が深まっていく。前出の石川教諭は言う。
「世の中が変化している今だからこそ、俯瞰(ふかん)して見る目を養いたい。空気に流されず、なぜ、と問いを立てて考える人間になってほしい」
新しい授業が増えている背景を、森上教育研究所の森上展安代表は、次のように見る。
「ITの影響が大きい。知識量ではかなわず、人間ならではの思考力やコミュニケーション能力を育てる教育が注目されています。指導要領も同様の流れに変わり、従来のやり方を変えても、理解されやすい環境が整っています」
宝仙学園理数インター(中野区)が、16年度から中学校の正式教科としたのが、校名にもある「理数インター」だ。富士晴英校長が担当教諭に託したのは「楽しい授業にしてほしい」だった。