●「避難場所」とは違う
意外にも、昼間人口が多く帰宅困難者の大量発生が予想される東京都品川区や千代田区は公共施設を含め「公表ゼロ」。港区も73ある一時滞在施設中、公表は9カ所だった。千代田区災害対策・危機管理課はこう説明する。
「公表すると、そこに人が殺到し混乱する可能性がある。建物が被害を受けていることも考えられ、かえって危険」
民間の一時滞在施設を公表していない豊島区は、区内にある大ターミナル駅、池袋周辺の一時滞在施設が足りないことが非公表の理由と話す。
「池袋周辺で発生するとされる帰宅困難者は5万人。現在ある一時滞在施設は1万5千人分ほど。公表すれば人が殺到し混乱してしまう。駅前再開発などで十分な施設が確保できないと、公表は難しいでしょう」
民間施設も含め「公開を原則としている」という渋谷区の場合、「逆に公開しないと混乱が生じると考えている」(防災課)。特定施設に人が集中しないよう、災害発生時には防災ポータルサイト上の一時滞在施設情報をいったん消して、準備が整った施設が一定数そろった段階で掲示していく方針だ。
どちらの言うこともわかるが、やはり「その日」に備えて事前に周知してほしいと思うのが、3.11を経験した人に共通の思いだろう。明治大学大学院特任教授の中林一樹さんも「事前公表が基本だ」と語る。
「自宅が被災した人を収容する『避難場所』と滞在場所は違うものだということも周知すべきだし、事前公開しておかないと一時滞在施設に対する過大な期待にもつながりかねない」
(編集部 野村昌二、福井洋平)
※AERA 2017年3月13日号