「常に工夫と判断が問われる現場で、鉄道のエキスパートが育つ。コンピューターに人間が支配されてはいけない」
トラブルがあった車両からの無線連絡や運輸司令からの指示は全社の関係部署で即時に聞くことができ、次の展開を予測して臨時列車や運転士、車掌を手配することもできる。
高速、安定輸送の実現にはハード面での進化も大きい。まず車両だが、短い駅間に対応できるよう加速、減速がすばやくできる車両が配備されている。ブレーキ性能向上やレールのカーブ整備を行い、有料特急以外の民鉄列車では異例の「120キロ運転」を95年に実現させた。
ハード面での独自性も京急の特徴。その一つが、列車が走行するレールを切り替える「分岐器」(ポイント)。かつて京急の技術部門を率いた丸山信昭氏が開発し、彼のイニシャルから「MK式締結装置」と呼ばれている。ポイントには「鎖錠(さじょう)」という、レールを機械的に動けなくする仕組みがある。レールの上を頻繁に電車が通るとポイントと転てつ機の間にずれが生じる。
「3ミリずれると鎖錠ができなくなり、ポイントが動かなくなる」(柳下一彦・川崎通信区長)
●モーターつきの先頭車
74年に導入されたMK式は発想を転換して、レールと転てつ機を連動して動かし、故障を減らした。
信号にも独自の技術がある。120キロ運転を実現するため、従来の信号のパターンに加え、「105キロ以下に減速」を意味する「抑速信号」を導入した。黄色と青の信号を1分間に80回明滅させるもので、「明滅する鉄道信号自体珍しい。何回点滅させたら運転士の目にしっかり入るか何度も研究を重ね、1分間に80回という回数に行きつきました」(道平さん)。
車両にも特徴がある。先頭車両の台車に必ずモーターを搭載している(先頭M車)のだ。先頭車両にモーターを搭載すると構造が複雑になってコストがかかり、メンテナンスも難しい。だが、先頭車両の重量が増すことで脱線したときに後ろの車両から圧迫を受けにくくなり、大規模な脱線事故が起きにくくなる。先頭車両が重くなることで線路上における車両の検知がしやすく、信号の切り替えがスムーズになるメリットもある。
「京急線に乗り入れる他社局の車両も先頭M車にしてもらっています。業界では京急はわがままだ、と言われているかもしれません」(道平さん)
●運転の姿を見せたい
だが、道平さんはハードの独自性に加えて「鉄道マン」としての仕事が安定、高速輸送を実現していると強調する。