「他社ではブレーキをかける場所が運転マニュアルで明示されていますが、京急ではそういうマニュアルを作りません。日によっても天気によっても運転状況は違いますし、状況に応じて余裕があればしっかり加速し、車両の性能を目いっぱい使っているんです」(道平さん)
空港線などのトンネル内では車内の光が運転窓に反射しないよう運転席後ろの遮光幕を閉じることが多いが、京急では開けられるときはなるべく遮光幕を開けるようにしている。
「自分たちが一生懸命運転している姿を、お客さまに見てもらいたいと思っているんです」
12年の土砂崩れによる脱線事故からは、もう一つの思想が加わったとも語る。
「止めない努力に加えて『止める勇気』も必要だ、と考えるようになりました」
そういった「鉄道マン」の心意気に裏打ちされた独自路線が、ファンの心もくすぐる。
「運転席の真後ろから見ると、住宅地をスピード感をもって縫うように走っていく様子が見られて気持ちいい。今でもわざわざ始発駅から乗り込んで一人で楽しんでいます」(吉川さん)
●京急の壮大な世界戦略
明滅式信号や反転フラップ式(電光ではなくパタパタと板が回転して行き先を表示するもの)行き先表示板、現在では少なくなったが、発車時に「ドレミファソラ~」と起動音が鳴る車両など他社では見られないものが見られる。
「そういうところをファンがいじっても、認めてくれるところがある。懐が深い会社です」(同)
道平さんも、「面白い鉄道会社と思ってもらいたい」と力をこめる。
京急の列車はほとんどが、赤地に白い帯が入ったデザインだ。新型車両の新1000形はさびにくいステンレス車で塗装する必要性がなく、登場当初はこの伝統色から外れていた。だが、昨年3月に登場した新1000形1800番台はわざわざフィルムを貼り、京急の伝統色である赤地に白帯のデザインを「復活」させ、鉄道ファンを喜ばせた。
「羽田空港乗り入れにより京急は世界のお客さまを相手にするようになった。『京急=赤い電車』というブランドイメージをしっかり定着させたいと考えています」(道平さん)
(編集部・福井洋平)
※AERA 2017年1月30日号