安定、高速輸送への強いこだわりは、東京→横浜→横須賀間のほぼすべてで並走する国鉄→JRとの競争の中で培われたと道平さんは語る。関東の民鉄でここまでJRと直接競争関係にある路線は存在しない。

「JR東日本さんのことは、運転士も含めて常に意識しています」(道平さん)

●古い鉄道文化を継承

 路面電車から出発した京急はJRに比べて駅の間隔が短く、カーブも多い。加えて線路の敷地が狭く、複々線化するだけの余力もない。そんな中で1時間最大27本(片道)の列車を仕立て、なるべく遅らせず、高速で運転させなければJRとは戦えない。

 その安定、高速輸送を実現しているのは何なのか。

「最新の技術も取り入れていますが、我々は意識的に古い鉄道文化、先輩の培った技術や人間教育を今に残し、生かしているんです」(道平さん)

 1987年の国鉄分割民営化から30年。さまざまな分野で自動化、省力化が進む中、京急はかたくなに「鉄道マン」の仕事を残している。その代表例が、冒頭に挙げた運輸司令の仕組みだ。

 路線上を走るすべての列車の運行を管理するのが運輸司令。現在はほとんどの会社が自動化している切り替え作業を、京急ではいまも手動で行っている。運輸司令からの指示は四つある運転区(蒲田、新町、金沢文庫、久里浜)と、沿線25カ所の「信号扱所」に伝えられ、「運転主任」と呼ばれる信号扱所の担当者1人がそれをもとに手で切り替え作業を行っている。京急では駅係員、車掌、運転士など鉄道に関する業務をすべて経験しなければ運転主任にはなれないという決まりがある。

 東京側の玄関口、品川駅構内の「品川信号扱所」を見学した。隣の泉岳寺駅から北品川駅まで、ホームや引上線(列車を止めておく線路)、踏切などが表示されたパネルに「信号テコ」と呼ばれるスイッチがついていて、それによりポイントや信号が切り替わる。

●機械に支配されない

 列車種別は7種類、乗り入れ先も多種多様で、一つの動作ごとに「上り快特、よし」「上り普通接近」と声を出して確認。パネルには「声を出して行う」「雑音大敵」と赤文字で注意書きが貼られ、集中力を考えて1時間で担当は交代する。品川信号扱所では1日3千回、金沢文庫運転区(横浜市)では1日7千回、スイッチの切り替えをしている。

 信号切り替えを人力で行うことで、冒頭の間引き運転のような柔軟な列車運行が可能となる。京急蒲田駅から羽田空港駅まで向かう「空港線」が遅れた時、本来羽田空港駅まで向かう列車を空港線に入れずに京急川崎駅で折り返させ、空港線の遅れを本線に波及させないようにするなど状況に応じた列車運行を実現している。品川駅付近の踏切が長時間閉じていると判断した時には列車の運行を一瞬止めて「開かずの踏切」化を防ぐといった判断もしている。増田一夫・蒲田運転区長はこう語る。

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