東宝の上層部がその日、新海が作った「君の名は。」のプロモーションビデオを見た。直後に副社長の千田諭が言った。

「300館規模で公開しよう」

 エグゼクティブプロデューサーで東宝映像事業部映像企画室長の古澤佳寛(38)は振り返る。

「250館規模を想像していました。いよいよ会社が本気になってくれたと思いました」

●13年前のコンタクト

 250館なら全国主要都市+中核都市。300館なら本当の意味での全国津々浦々。メガヒットの舞台は一気に整った。

 新海と東宝が最初に接触してから13年。新海に「スタッフの作品に対する愛を感じた。東宝に預ける安心感はあった」と言わしめた関係性は、小さな決断の積み重ねで醸成された。

「ぜひ、新海さんにお会いしたいです」。「ほしのこえ」を発表した後の03年初め、新海側にコンタクトしてきたのは、東宝のプロデューサーになったばかりの川村元気(37)。代々木のオフィスに現社長の島谷能成と現れた。新海には会えなかったが、

「いつか、一緒にやりましょう」

 と言って帰っていった。

「ネットで話題になっていたので、DVDを買って見ました。『なんだこの空の色は』と思ったのを覚えています」(川村)

 その後、東宝の映画制作を統括する映画企画部長の山内章弘(47)も顔を出すようになり、情報交換するなどして関係を深めていった。

 この関係が「仕事」になったのは12年。東宝は新設したアニメ事業室で新海作品「言の葉の庭」を配給することを決める。前出の古澤が室長を務めたこの部署は、250、300という館数では扱えない作品の興行と、東宝の弱点であるオリジナルアニメコンテンツを発掘することを目指していた。新海を、

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