「絵と音の美しさに加え、常に描きたい物語を持っている人」と評価する古澤だが、

「大規模公開のみを前提とする東宝の旧来の戦略では、新海さんと組むのは難しかったかもしれない」

 と話す。CWFの社長、川口典孝(47)も思った。

「『言の葉~』は絶対売れる。でも、これ以上の世界に行くためには東宝の力を借りないと」

 川口が新海の次回作、まだ影も形もなかった「君の名は。」を東宝で制作してほしいと伝えたのは、「言の葉~」の初号試写直後。ここからの古澤の動きは具体的だった。

 会社の1年後輩にあたるプロデューサー川村に声をかけ、大学の同級生だった「言の葉~」の宣伝プロデューサー弭間(はずま)友子(39)も加えてスタッフを固めた。彼女はすでに新海の信頼を得ていた。14年7月にCWFで開かれた新海との会議には原作になりそうな本を頭に浮かべながら臨んだが、「夢と知りせば」と仮題のついた企画書を読んで「言う必要はない」と直感。「君の名は。」の要素がすべて含まれていた。

 あとはどうヒットさせるか。

 川村は、クライマックスを後半に固める、シリアスな場面ばかり続けずコミカルな展開を、などと構成に踏み込んだ。

「川村さんは説明がとてもうまい。『もう十分だろう』というタイミングでも、『もう一歩ほしい』と粘り強くアドバイスしてくれました」(川口)

 新海も、これまでの作品では見せなかった派手なアクションやコミカルな要素といった引き出しをあけ、幅広い層へのアピール力が強まった。川村、古澤、弭間の説得で新海が『小説 君の名は。』を書き、公開2カ月前に発売したことも、ロケットスタートにつながった。

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