新海誠監督作品過去の興行収入(AERA2017年1月2-9日合併号より)
新海誠監督作品過去の興行収入(AERA2017年1月2-9日合併号より)
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 右肩上がりの時代なんてもう来ない、という話をよく聞く。本当にそうなのだろうか? 実は身近に、30年にも及ぶ「どん底」から抜け出して絶好調を迎えている業界がある。日本映画だ。2016年の日本映画界は、「君の名は。」「シン・ゴジラ」を筆頭にメガヒットが次々に生まれた。「なぜか」を取材してたどり着いたのは、小さな決断を積み重ねた末の5つの大きな決断。「AERA 2017年1月2日・9日合併号」では、その決断の一つ一つがどうなされたのかを徹底取材。ロケツーリズムや監督と俳優の人脈図など、「日本映画」を大特集している。その中から、「君の名は。」ヒットの裏を紹介する。

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 公開中の映画「君の名は。」の勢いが止まらない。2016年8月公開。知る人ぞ知る存在だった新海誠(43)が監督し、東宝が制作・配給した。興行収入(興収)は200億円を超え、邦画ではスタジオジブリ「ハウルの動く城」を抜いて歴代2位。中国でも記録的ヒットとなった。

 新海が短編アニメーション作品「ほしのこえ」でデビューしたのは14年前。作画から声までほぼ一人で完成させた作品だった。その後、一定のペースで作品を送り出し国内外のファンがついたが、新海の所属事務所であるコミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)が製作し東宝が配給して、新海史上最高の動員数を記録した13年公開の「言の葉の庭」の上映館数は23。興収は1.5億円。ヒットの目安とされる10億円は遠かった。

 それが、「君の名は。」では200億円超。大きすぎる飛躍をもたらした最大の決断は、15年12月、東京・有楽町にある東宝本社の試写室でなされた。

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