忘れている人が多いが、独裁と民主制は相性が良い。ヒトラーもムソリーニもペタンも、立法府が「私たちにはもう国家の重大事を議するだけの能力がありません」と自らの無能を宣言したせいで民主的手続きを経て独裁者になった。立法府が見識と威信を失えば民主制は自動的に行政府独裁に移行する。別に、ある日行政府の長が「私は独裁者だ。私に逆らうことは許さない」と芝居がかった宣言をしてから始まるものではない。議会が機能していないことを繰り返し誇示しているうちに、立憲民主主義は壊死するのだ。
いま私は個別の法案の適否を論じているのではない。国会の存在理由が日々掘り崩されていることに当の議員たちの多くが進んで加担していることに絶望しているのである。(内田樹)
※AERA 2016年12月26日号