●「どうもどうも」脱する
大阪大学の小林傳司・副学長は言う。
「文部科学省からは、『国のお金だけで国立大を運営する時代は終わった』としきりに言われますね。『産業界のお金を大学に入れなさい』と。産学連携、というわけです」
阪大ではこれまでも研究成果の特許化に加え、寄付講座や協同研究講座、協働研究所などの産学連携の取り組みを積極的に進めてきた。
「『どうもどうもの産学連携』と呼んでいるんですが、産学連携というと、大学の先生と企業との個人的な付き合いによる数百万円ほどの共同研究が多かったんですね。それを今後は、より組織的に、システムとしてやっていこうとしているのです」(小林副学長)
自ら「稼ぐ」大学に、という傾向はここ10年で加速していると、名古屋市立大学の郡健二郎学長はため息をつく。国立大にとどまらず、公立大学も含めて広がる傾向だという。
「かつての大学は、『優秀な研究者が尊敬される』という価値観があり、大学のトップが決まっていました。ところが、最近では国公立大のうちでも、大学経営が一番重要、と言われるようになってきました」
そこで当初、それぞれの大学が手をつけたのが病院経営の改革だった。
実際、ここ10年で大学附属病院の収益は大幅に改善し、国立大学など90法人の附属病院収益は1.5倍に伸びた。そのためか、近年、学長などの大学トップは、附属病院長経験者が選ばれるケースが増えた。
「でも、附属病院の収益増ももう限界です。そうすると、今後は企業からお金をとってくるのだと、これまで以上に産学連携が言われるようになってきました」(郡学長)
政府は12年度の補正予算で、東北大、東大、阪大、京大の4大学に計1千億円を出し、大学発ベンチャーに投資ができるベンチャーキャピタル(VC)を設立できるようにした。国立大が「機関投資家」の仲間入りをしたことになる。
「不動産業」に進出する動きもある。
JR札幌駅から北に向かって数分歩くと、広大な緑の敷地が広がる。北海道大学札幌キャンパスは190万人都市の中心部に位置しながら、東京ドーム38個分の敷地が広がる。
●駅近一等地の土地活用
今年7月、北大は日本政策投資銀行と業務協力協定を結んだ。狙いの一つは北大の新たな収入源の確保だ。
「立地が良く広大なため、他大学と比べても、北大は土地活用の可能性が大きいのです。札幌駅に近い立地をうまく活用して、大学の財務基盤強化につなげたい」
政投銀北海道支店企画調査課の松村智巳課長は、力を込めてそう言う。
来年4月に施行される国立大学法人法改正で、大学が保有する土地の貸し付けに関する規制が緩和される。これを受けて、自己収入の確保を進めようとの考えだ。
どの大学も「稼ぐ」ことにしのぎを削る。だが、阪大の小林副学長は眉をひそめる。
「そうはいっても、大学の経営陣の多くは、研究者である教員です。経営のプロというわけではありません。武家の商法みたいなものですよね。『稼げ』と一方的に言われても難しいと思いませんか?」
前出の各務教授も言う。
「研究成果の事業化というイノベーションのために私は産学連携に取り組んでいますが、それで大学が『稼ぐ』というのは少し違うのかもしれませんね」
少子化に加えて、国の財政が厳しくなる中、国公立大は国からの財源確保がさらに厳しくなっている。大学がどう生き残るべきなのか、社会に対する大学のあり方が問われている。(編集部・長倉克枝、熊澤志保)
※AERA 2016年12月19日号