「高校に入学した時からの夢を優先したいと思います。マイナーからのスタートになると思いますけど、そういう厳しい中で自分を磨きたい」

 しかし、日本ハムドラフトで強行指名する。翻意を促す過程で、日本ハムは、大谷のために「夢への道しるべ」という冊子を作り、18歳で海を渡ることがいかに困難か、そしてこれまでの日本人選手が米国で成功を収めるまでにどんな経緯をたどったかをデータで提示した。そして、決め手となったのが、「二刀流」挑戦の提案だった。

 日本のプロ野球史で、投打で一流の成績を残した選手はいない。ダルビッシュ有が背負った背番号「11」を用意する一方、主軸としての大きな期待も伝えることで、メジャー挑戦に代わる大谷のパイオニア精神を刺激し、入団を決断させたのである。

 交渉の間、監督2年目の栗山英樹氏にインタビューし、「大谷をどう口説くのか」と質問したことがある。

「うちだったら、(在籍)3年でポスティングに出すことだってあり得るかもしれない」

 あくまでひとつの可能性として語っただけで、その後に入団が決まり、日本球界の宝に成長した選手をそう簡単に手放すはずもない。

 しかし、既に入団して4年目を迎えた。投手としては低めに決まる剛速球だけでなく、151キロのフォークに、140キロ台のスライダーが武器である。打者としてはスイングスピードが増し、一発の魅力だけでなく、広角に打つことができる。

 投打で前例なき実績を残した今、二刀流を携えての米国挑戦──。そんな新たなパイオニアとしての歩みを期待してしまう。メジャー球団が二刀流を容認するか否かはともかく、充実のシーズンを終えた大谷が、幼き日からの夢に思いを馳せていてもなんら不思議はない。(ノンフィクションライター・柳川悠二)

AERA 2016年11月7日号

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