


夏になると食べたくなるアジア料理。パンチのきいたエスニック料理店で「行きつけの外国」を探してみよう。アエラ8月22日号(8月16日発売)で特集した「東京で食べるアジア飯の極」から、今回は特別にレバノン料理店を紹介する。
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「今日はなにを食べる?」と言われると悩んでしまうほど、世界中のおいしいものが集まる国際都市・東京。ここ数年は、より細分化した珍しいエスニック料理店が増えている。昨年末、お茶の水の明治大学前にオープンした「アドニス東京」もそのひとつ。西アジア・中東に位置するレバノンのファストフード店だ。
フランス在住のレバノン人兄弟がリヨンに6店舗を構える人気店で、7店舗目に日本を選んだ。「日本人は忙しいイメージ。ヘルシーで気軽に食べられるレバノン料理のラップサンドは合うと思った」と兄のアハメド・セルマンさんは言う。
アハメドさんは6歳までレバノンのバールベックで暮らした。覚えているのは、ローマ帝国時代の古代遺跡、バッカス神殿が子ども心に美しかったこと。今も親戚が暮らしているが、シリアとイスラエルに隣接するレバノンの治安情勢を考えると、帰れない。だからこそ、イスラム教とキリスト教の宗派が乱立し、古くからヨーロッパと西アジアの交易路として栄えたレバノンの味を広く伝えたいと思った。
レバノン料理は野菜や豆類が中心で、ハリウッドセレブのダイエット食として欧米で人気になった。フランスでも日本でも客の9割は女性だ。「練りゴマやレモン、ヨーグルトをよく使います。日本の食卓にあるものが多いので日本人の舌になじみやすいですよ」と唯一の日本人スタッフの菅原淳一さんは話す。
人気メニューは、定番料理「ファラフェル」のラップサンドだ。「ファラフェル」とは、すりつぶしたひよこ豆とスパイスを混ぜ、素揚げしたもの。一口食べるとスパイスの味を感じるが、クセがなく、おからのコロッケのようで食べやすい。
初レバノン料理なら「ホモス」にも挑戦したい。水煮したひよこ豆にオリーブオイルやレモン、練りゴマを加え、ペースト状にしたものだ。ピタパンにつけて食べると、レモンの酸味と豆のホクホク感が口に広がった。食べごたえがあるので、レバノンビールやワインと一緒にテイクアウトして、友だちみんなで食べるのもおすすめだ。
アハメドさんは3カ月に1度来日し、店に立つ。たまたま出会えた取材の日は、日本語を話せないアハメドさんのために、チュニジア人やフランス人のスタッフがみんなで通訳のリレーをしてくれた。英語とフランス語、アラビア語が飛び交う店内は、旅先にいるワクワク感も味わえる。(ライター・塩見圭)
※AERA 2016年8月22日号