3大会ぶりに五輪の団体金メダルを勝ち取った男子体操日本代表。絶対王者頼みのチームから、ニューヒーローが誕生し、美しさと強さがさらに増した。
8月8日の体操男子団体決勝の第3種目め、跳馬。白井健三(19)が3回ひねりを成功させ、地面に突き刺さるような完璧な着地を決めた瞬間、試合の流れがガラッと変わった。
会場アナウンスが叫ぶ。
「アメージング!」
これまで“絶対王者”の内村航平(27)に頼り切っていたチームだったが、“ひねり王子”白井が“主役”になる日もそう遠くないと予感させるシーンだった。
●跳馬成功すればのれる
予選でミスが相次ぎ4位通過した日本は、決勝を得意種目ではない「あん馬」「つり輪」から始まり、疲れが出る終盤に体力を消耗する「鉄棒」と「ゆか」が待つという最悪の演技順に挑んだ。6種目すべてに出場した内村は、大きなミスはないものの精彩を欠いた。
日本はあん馬で山室光史(27)が落下し、つり輪の点数も伸び悩んで、2種目終えて5位。そんな中で迎えた跳馬だった。
アテネ五輪でヘッドコーチを務め、今大会も帯同する森泉貴博コーチ(45)は言う。
「跳馬で成功すれば平行棒以降はのれるというのは戦略上あった。それがうまくはまった」
白井は、最終種目のゆかでも第1演技者として16・133の高得点をたたき出し、逆転を狙っていたロシア、中国らの戦意を喪失させた。出場した跳馬とゆかで日本の最高得点。特に16点台が出たのは、団体決勝の全演技中2人だけだった。
内村は、アテネ五輪以来、3大会ぶりの団体金メダルをとった勝因をこう説明した。
「アテネでは美しい体操で金メダルをとったけど、今回は美しい体操は当たり前で、それにプラスで爆発的に点数が取れる選手が出てきた」
白井は両親が元体操選手で指導者、兄2人は現役選手という体操一家に生まれた。父の勝晃さん(56)によると、おむつをしていた頃から体操場が遊び場で、トランポリンでよく遊んでいた。ひねりに必要な体幹や脚力の強さはそのころ養われた。