この日、子どもたちが書いた感想からは、確かに彼らのワクワク感が伝わってくる。
「自分の携帯にもプログラミングのアプリを入れて、もっとやりたい」
「毎回違うことを知ることができた。うまく設定できないこともあったけど、2、3学期にはちゃんとできるようになりたい」
前原小では英語の授業でもタブレットを使っている。動画を見てネイティブの発音を学ぶ。今度は自分の発音を録音すると、その良しあしをABCで評価してくれるので、子どもたちは大張り切りだ。小学3年生からの英語必修化を前に、教員不足が指摘されているが、いいアプリを使えば、英語の苦手な教師が無理して教えるより、よっぽど有効ではないかと思えてくる。
三雲中の川口校長も、前原小の松田校長も、「タブレットが1人1台あるのとないのとでは大違い」と口を揃える。しかし、昨年3月時点で、公立小中高などの整備率は、パソコンと合わせても全国平均でまだ6.4人に1台。無線LANも23.5%にとどまっている。国は、14~17年度の4年間で、総額6712億円の予算を学校のICT化に投じるが、地域差は大きい。その要因の一つは、ICT化予算が地方自治体に配分される際、「地方交付税」になってしまうこと。つまり、それを本当にICT化に使うかどうかは自治体の裁量なのだ。
●教材をサイトで共有
そんななかで、ICT化に積極的に取り組んでいる自治体の一つが滋賀県草津市だ。学校情報化予算を5年間で約3倍に増額。昨年時点で、タブレットの配備数を2.3人に1台にまで増やした。また従来、教師や学校が個別に作成していたデジタル教材や学習指導案を、市内すべての公立小中学校の教職員800人が共有できるポータルサイトを開設した。
「どこかの先生がいい教材を使っていると聞けば、直接学校に行って、見せてくださいとお願いしていた。ネットで共有できれば、先生たちにとって便利なはず」(草津市教育委員会)
教委によると、今年4月の本格稼働から4カ月ですでに1200ものコンテンツが集まった。ダウンロード後は、それぞれの先生が自由に加工し、自分の授業に使える。ICT化を地域全体、あるいは国全体で進めていくには、予算の充実はもちろん、こうしたノウハウの共有は欠かせない。
教師を対象に、タブレットを使ったプログラミング授業の研修を前出の前原小の松田校長と実施し、自治体のICT化のコンサルティングを手がけるフューチャーインスティテュートの為田裕行さんはこう話す。
「ICTの活用は万能ではない。でも教師力を70点から80点に、80点から90点に引き上げる強力な武器になります。ICT教育は、ステークホルダーの少ない私立のほうがやりやすい面もありますが、公立校で授業や学びの質を上げた事例をいかに広げていくかが、全体のレベルを上げるカギとなるでしょう」
(編集部・石臥薫子)
※AERA 2016年8月22日号