「アスファルトの舗装やコンクリートの建築物の影響のほうが大きいと考えられるようになってきました」
●都心は湯たんぽ状態
緑や土に覆われた地面は熱くなると水分を蒸発させることで熱を奪い、地表の温度上昇を抑える。コンクリートやアスファルトで覆われるとその効果が失われ、熱くなった分だけ地表の温度が上がってしまう。
加えて、東京は空が狭い。高橋教授らが、建物などで遮られずに地面から空が見える割合、「天空率」を都内で調べたところ、特に日本橋から銀座にかけてのエリアに中・高層建築物が密集し、空が見えにくかった。こうしたエリアは、いくつもの湯たんぽに囲まれているようなものだと高橋教授は言う。
「コンクリートは日中に太陽からの日射を吸収して、熱をため込み、建物自体が湯たんぽのようになる。昼間だけではなく、夜もその蓄えた熱で空気を暖めます。さらに、たくさんの建物に囲まれた密集空間では熱が逃げにくくなり、いわば『保温』状態になってしまう。東京で熱帯夜が増えているのもその影響が大きいと考えられます」
東京に暑さから逃れられる場所はないのか。
少し古いが、興味深いデータがある。首都大学東京の三上岳彦名誉教授(気候学)らが夏場のヒートアイランドの実態を調べるために、04年7月8日の東京23区の気温分布の時間変化と風の状態を測ったものだ=チャート。
白い点線上が基準温度(23区の平均気温)で、最も濃いグレーのエリアが基準値より2度低く、最も濃い赤のエリアが2度高いことを示している。例えば、一番暑い午後3時の場合、東京湾に面した江東区や江戸川区などの沿岸部と練馬区や板橋区などの北西部では、4度近い気温差がある。
この気温差が海風の影響であることは容易に想像がつく。
「沿岸部の日中の気温が他のエリアと比べて低いのは、冷たい海風が暑い陸地に吹き込むから。さらに、海風は川に沿って入ってくるので、隅田川や荒川に沿って『風の道』ができる東京の東側は、昼間でも比較的過ごしやすい地域です」(三上さん)
逆に、東京湾から離れた練馬や板橋などの北西部は海風の恩恵を受けにくい。
「都心の風下にあたるため、立ち並ぶ高層建物が邪魔をして地上の風が弱い。ヒートアイランド現象で熱くなった都心の空気が、海からの南風で運ばれてきている可能性もあるかもしれません」(同)
興味深いのは、昼間に沿岸部の温度上昇を抑える海風が、夜間は逆の効果をもたらすことだ。夜間まで海からの南寄りの風が沿岸部で残り、放射冷却でより冷えた陸からの風がこのエリアまで届かない。