「夏の東京は、24時間熱を出し続けている都心エリアを中心に、海側と陸側は風の影響を受け、昼と夜で気温が大きく変わってきます」(同)
はやりの湾岸エリアに住むのではなく、例えば「練馬に住んで湾岸で働く」という選択が、暑さを避けるためには有効だということだ。
●大阪は風が吹かない
風は、大阪の夏を語るうえでも欠かせないキーワードだ。
「大阪の街を歩くと東京より風が弱いと思いませんか? だから暑く感じるのです」
と話すのは、大阪市立大学大学院工学研究科の鍋島美奈子准教授だ。鍋島准教授によれば、
「100年前も、大阪は東京より夏の平均気温が高かった。地形や地理的な要件が大きい」
一般に、風は海と陸の温度差で吹き、夏は、海から陸に吹き込んだ冷たい風が内陸で温められて上昇し、それが上空で冷やされて海へ……という「海陸風循環」が起きる。東京より平野が狭く、面している海も狭い大阪は、この循環の「駆動力」が小さい。
「風が弱いと、都市化によって増えた自動車やクーラーの排熱も拡散しにくくなります」
ここに都市ならではの環境が加わって、大阪はさらに暑くなっているのだ。
●放射で暑さを制御する
鍋島准教授は08年8月に、大阪ミナミの心斎橋から西側の木津川、道頓堀川で囲まれたエリアの気温を測定。海風の影響を調査した。
西側の海から風が吹くと、木津川が風の通り道となって涼しい空気が広がるが、東に進むにつれて効果は薄れ、1.5キロほど先の心斎橋付近には冷気は届いていない。
「長堀通りは東西に走る道路で日当たりがいいので、たとえ川から冷たい風が吹いても地表の熱で暖まってしまう。道路の熱気に排ガスが混じり、不快な熱風の道になってしまっています」
大阪の暑さを緩和する方法はないのか。
「気温ではなく、体感温度を下げる。気温以外の熱ストレスをコントロールするというのが、産官学民連携で大阪府が打ち出しているヒートアイランド対策です」(鍋島准教授)
熱ストレスは、「気温」「湿度」「風速」および、日射と物体が発する熱放射を加えた「放射」の4種類。意外とコントロールしやすいのが「放射」だ。
「あらゆる物体から熱放射があり、それは表面温度の4乗に比例する。木陰をつくれば、日射を遮るだけでなく、下から感じるむっとした熱も減少します」
鍋島准教授が、7月上旬の午後3時に木陰とアスファルトの道路で実測したところ、気温はほぼ変わらなかったが、地面からの熱放射の差は、1平方メートルあたり白熱球1個分くらいのエネルギーに相当した。街路樹や緑地の整備には、予想以上に効果がある。
「逃げ込めば涼しさを感じることができる屋外のクールスポットが点在する。大阪をそんな街にしたい」
大阪府と大阪市は、熱帯夜対策も進めている。大阪は夜も暑いのだが、建物の壁面や屋上の緑化などを進めて蓄熱を抑制することで、住宅地域で25年度までに熱帯夜の日数を00年比で3割減らすことを目標に掲げている。(編集部・鎌田倫子、山口亜祐子)
※AERA 2016年8月1日号