もちろん、評価の対象はパフォーマンスに留まらない。新日本のテレビ中継「ワールドプロレスリング」の解説者で、入門当初から中邑を取材してきた金沢克彦さんは次のように語る。
「中邑は今、WWEの中の『NXT』というリングに上がっていますが、そこではレベルが違う。まだ3カ月なのに、若手にプロレスを教えてやってくれ、と言われる立場になっています。中邑も若い頃はとんがっていて、自分がプロレス界を背負っているという意識も強かったんですが、5年ほど前からはいい意味で肩の力が抜けてきた。勝敗以上に一試合一試合、最高のものを見せようと。相手レスラーの良さを引き出す柔軟なファイトには色気さえ感じますね」
●両国凱旋で2連勝
7月1、2の両日、WWEは東京・両国の国技館で興行を開催。いずれもセミファイナルに登場した中邑は、自身のヒザで相手の顔面や後頭部を蹴り上げる「キンシャサ」(旧名・ボマイェ)によって2連勝を飾った。だが何よりも超満員の観客は、中邑が中邑らしく闘っているという事実に興奮を覚えていた。
「ステレオタイプの試合をやらされていないところに、大きな可能性を感じます」と斎藤さんが言えば、金沢さんも「WWEヘビー級のタイトル奪取を期待したい」と言葉に力を込める。
中邑の挑戦。それは日本のレスラーとファンが築き上げたプロレス文化の挑戦でもある。(ライター・市瀬英俊)
※AERA 2016年7月25日号