派遣会社から昨年5月ごろ、法改正などを理由に、3年後には契約が更新できないかもしれないと聞かされた。驚いて部長時代から知っている派遣先の社長に直談判した。事実なのかと問い詰めるDさんに、社長は言い放った。
「派遣でも人によっては部署を替えて残ってもらう人もいる。しかし、あなた、今56歳でしょう。3年後は59歳。60歳間近で、同じように使うということはありえない。よっぽど特殊技能とかあれば話は別だが、あなたはそこまで優秀じゃないんだ」
一瞬、頭の中が真っ白になり、何を言われているのかわからなかった。我に返って抗議すると、社長はこう言った。
「3年あれば、辞めた後の準備期間としては十分だろう」
後日、このことを派遣会社に伝えると、しれっと言われた。
「先様がそうおっしゃっているので、私どもは法令に則っているだけの話ですから」
「先様」とは派遣先のことだ。
●資格が10件あっても…
Dさんは証券2種外務員、ビジネス能力検定2級、秘書技能検定2級など10件の資格を持っている。だが、いくら資格を持っていようが、還暦間近になったDさんに今と同じような派遣先があるとは考えにくい。3年後、仕事はあるのか、体力的に働けるのか、医療費が余分にかかるのではないか。日雇い派遣でつないでいくしかないのか──。日々、不安に押しつぶされそうになりながら暮らしている。家族には心配させたくないので、あまり詳しくは伝えていない。Dさんはこう話した。
「仕事を奪われるということは、収入が途絶えて生活の基盤を失うということです。法律が改正されたからといって、今まで頑張ってきた人間を切るのは、非人間的な行いだと思います」
中高年派遣社員は今後も増えるだろう。これは、明日の正社員の問題でもある。
※AERA 2016年2月15日号