カネボウの粉飾決算では06年に中央青山監査法人(当時)が2カ月の業務停止処分を受けた。その結果、決算への支障を恐れた顧客企業が契約を打ち切り、中央青山は破綻。新日本に同様の処分を出して、企業に「監査難民」が出ると大混乱になる。だから、「厳しい処分は出ないだろう」という大方の見方通りの結果になった。

 今回の処分を詳しく見ると、金融庁の弱腰がにじみ出ている点がまだ見つかる。処分対象にしたのは、パソコン事業や半導体事業など東芝の第三者委員会が不正を指摘した分野だけ。本誌昨年12月7日号でも報じた、東芝の不正会計疑惑の「本丸」、ウェスチングハウス(WH)の「のれん代」には触れていない。

 純資産2400億円のWHを東芝は約6千億円で買収した。WHが営む原子力ビジネスはこれから広がる、と見込んで差額の約4千億円をのれん代として計上した。それが見込み違いだったことから東芝の迷走が始まった。日米にまたがる原子力ビジネスの会計処理はどうなっているのか。東芝疑惑の核心はそこにあるが、金融庁はメスを入れず、やり過ごした。

「検査は処分事案以外でも行った。何を調べたかは言えない」と金融庁の担当者。処分がなかったのは問題なしということか。そう問うても答えはなかった。

 処分を受け、新日本は東芝との監査契約を辞退する、と発表した。来年3月期の決算は別の監査法人が担当する。新たな会計士は、曇りない目でWHののれん代を判断できるだろうか。

AERA  2016年1月11日合併号より抜粋

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