関西学院大学社会学部准教授の鈴木謙介さんは、結婚相手に求める条件の変化に着目する。
「かつては女性が玉の輿に乗るなど男女の間で収入に差がある格差婚がよくあるパターンだったが、今は『同格婚』の時代です。収入や地位が上がれば、相手にもそれに見合うだけのものを求めてしまう。お金があったらあったで、他のハードルも高くなるのです」
パートナーに求めるのは単に収入や容姿など目に見えるものだけではない。消費の仕方や価値観、コミュニケーション能力の高さも自分と同じくらいのレベルを求める傾向にあるという。
●“同格婚”のジレンマ
仕事と大学院を両立する前出のユウジさんも、
「相手に依存せず、自分のやりたいことに力を注ぐ女性がいい」
と言う。自分と同じような成長スピードで、人生を高め合っていけるような関係が理想のよう。相手に内面の「同格」を求めているのだ。自分を磨けば磨くほど、相手への要求も高くなる。「同格婚のジレンマ」が独身者を覆っている。
さらに、相手探しだけではなく、結婚後の生活そのものにコスパの悪さを感じるのは、首都圏の病院のICUで働く看護師のミキさん(39)だ。夜勤も多く、勤務時間が不規則。仕事に取られる時間が多い分、「普通のサラリーマンより稼いでいる」と自負している。
「結婚したら、どう考えても自分にかけられるお金は、必然的に少なくなりますよね。今の生活水準を落としてまでする必要があるのか……」
最近、「子どもが欲しいから」と結婚した30代半ばの後輩を見て、その思いを強くした。後輩の夫は、後輩の半分以下の年収で、不安定な職業の男性。
「焦ったばかりに、あんなのに捕まって。私から言わせればポンコツです。子どもを望まなければ、今すぐに結婚しなくてもいい。メリットがない」
ミキさんはいま自由を謳歌している。
「今月の例会はいつ、どこで開こうか。希望の店を教えて」
月末が近づくと、看護師仲間と飲み会の予定を嬉々として調整する。ストレス発散のためだ。同僚や友人との飲み会には月5万円以上を費やす。身体のメンテナンスのために休日はヨガ教室にも通う。
これらの出費はミキさんにとって必要経費。患者の命に関わる仕事はやりがいもあるが、張り詰めた緊張をプライベートで解きほぐさないと続かない。
「パートナー? 今はいません。明確に結婚しないと決めているわけではないのですが」
●怒られてばかりの生活
一人の自由を明け渡して結婚しても、リターンが乏しいどころか、負債まで背負う羽目になるのでは。そんな疑念が、結婚そのものをコスパが悪いと感じさせる。
疑念ではなく体験として語るのは、バツイチのタカシさん(35)。
「これ以上の人はいないと思って結婚したが、一緒に暮らすと我慢ばかりしていた」
と、結婚生活を振り返る。