収入が十分あって、結婚する気もあるのに、独身。努力を重ねてキャリアや人生を切り開いてきただけに、結婚は成果が不確実に映る。希望やこだわりの高騰に対し、労力を割くメリットが見当たらない。(編集部・鎌田倫子、柳堀栄子)
「大学院スタート!」「卒業するまでに本を出す」「海外を見据えた語学力、プレゼン力」「自己ブランディング」……。
ひとり暮らしの寝室の壁に掲げられたホワイトボードに、今後身につけたいスキルや人生の目標、ロードマップが書き込んである。働きながら東京大学大学院に通う会社員のユウジさん(31)は、スケジュール通りにこなすだけでも大変な日々を、このボードを見つめることで、自分の気持ちを高めて乗り切るのだという。
「今、頑張っておかないと。この5年が勝負だと思っている」
常に「勝負」で、気を抜いていたら置いてきぼりを食らうような気がするらしい。
●「いつも力んでいる」
平日の日中は大学院に通い、夜7時半ごろに出勤し、夜中の11時くらいまで働く。講義が少ない木、金曜日は朝から出勤して仕事に集中する。
「仕事や勉強は頑張れば結果に出る。求めれば切り開ける面白さがある」
と、ユウジさんは言い切る。大学卒業後、大手マスコミで働き、「新しい世界を見たい」と倍率20倍の競争を勝ち抜いて教育関係の会社に転職した。その2年後には「専門を持ちたい」と大学院に進んだ。
努力して成功体験を積み重ねてきたユウジさんでも思うようにならないのが恋愛だ。彼女は今すぐにでも欲しいし、結婚もしたいが、相手が見つからない。
この2年間で、知人の紹介などで6人の女性とデートした。だが、いずれも一度きり。
「どの人もピンとこなかった。忙しい時間をやりくりしてまで、また会いたいと思いませんでした」
ストイックに頑張るユウジさんに対し女性たちは冷ややかだ。女友達は、
「自分に厳しい人は、他人にも厳しい。彼女にまでキャリアアップを求めそう」
と茶化す。久しぶりに会った高校時代の彼女にも、
「いつも力んでいる気がする」 と言われた。
●手元に何も残らない
頑張ることや努力することがマイナス評価になるなんて、恋愛とはなんと理不尽なんだろう。どれだけ時間と労力を割いても、なかなか「この人だ」という女性に巡り合わないのだから、おのずとキャリアアップを優先し、恋愛は後回しになる。
「出会いの数は確実に減っていて、寂しいと思うこともあります。でも土日も研究発表の準備に忙しくて、恋愛に費やす時間は見当たりませんね」
PR会社に勤めるケイコさん(36)は、最近、恋愛や結婚のために以前ほどエネルギーを注げなくなったという。