「以前、つきあっていた彼のために仕事をセーブして尽くしたけど、ダメになったとき手元に何も残らなかった。同棲までした彼とも結局、結婚には至らず。これほど無駄な時間はないと思った」
今は仕事に邁進する日々。朝食はデパートで買ったグラノーラとカットフルーツを食べ、ウォーターサーバーの水を飲み干して出勤する。自分の思うように日々をデザインできるのが何よりも快感だという。
●彼氏より仕事の人脈
日中は分刻みで打ち合わせをこなし、気がついたら夕方。夜は、「おいしい焼き肉を食べる会」や「タワーマンションの最上階で料理を作って食べる会」など、あらゆる交流会に参加する。それも彼氏探しが目的ではなく、仕事の人脈を広げるのが狙いだ。元彼との生活のために買ったフライパンや鍋は、キッチンの奥にしまわれたまま。
「今は、不確かな恋愛や結婚に労力を費やすよりも、仕事や友人と過ごすために時間を使ったほうが有意義だと感じます」
1日は24時間。人生は一度きり。自ら模索し続けないとキャリアアップも望めない時代を生きる独身男女にとって、恋愛や結婚は、成果が不確かでコストパフォーマンス(コスパ)が悪いものに思えてならない。国立社会保障・人口問題研究所の「結婚と出産に関する全国調査」(2010年)では、25~34歳の未婚男女が独身にとどまっている理由は、「適当な相手にめぐりあわない」が最も多かった。
●自分と葛藤するコスト
適当な相手に巡り合うためにかかるコストは、「時間」だけではない。精神的なエネルギーもコストの一つだ。
「パソコンで登録画面を開いても、最後のクリックで躊躇してしまう」
登録画面とは、結婚相談所の申し込みのサイトのことだ。商社で働くアキラさん(40)は、そろそろ結婚したいと真剣に悩み、相談所への登録を考えるが、いまだできていない。
商社勤務で年収も高い自分は、登録すれば「売り手市場」だとはわかっているが、相談所に頼らないと結婚できない自分が許せない。こんな葛藤を乗り越えなければならないほど、結婚のハードルは高いのか。
「ところで結婚はどうなの?」
職場の飲み会でも、接待でも、実家に帰っても長年繰り返し聞かれるこの質問にうんざりしていた。「相変わらずです」と笑顔で答えるものの、ボディーブローのように効いてストレスになる。30代後半になると周囲の独身者が減り、出会いの数も激減した。焦りは感じている。
「見えないレールに乗ってしまった気がする。30歳くらいで結婚しておけばよかった」
これまで仕事では会社からの期待に応え、海外勤務も経験した。社会人リーグのコーチを務めるほどスポーツも万能。目標には全力で取り組んできたが、結婚するために結婚相談所を利用することはどうしても自然に思えない。
なぜ、結婚の相手探しはこんなにも難しくなったのだろうか。いつから、結婚は何かを犠牲にしなければ手に入れられないものになってしまったのか。