鼻づまりは誰にも身近だが、睡眠を妨げるなど、多くの危険をはらんでいる。とりわけ子どもの場合、成長を阻害する恐れもあるという。
友香ちゃん(仮名、6歳)の勉強スペースは、キッチンとリビングの間。母親の順子さん(仮名)の目の届く位置にある。友香ちゃんは、きびきびと図形パズルを組み立てていた。
「お母さん、ここ押さえててね」
「すごいね、さっきはできなかったのができたね」
母親に褒められると、得意げに次の問題に取りかかる。今でこそ何にでも積極的な友香ちゃんだが、ほんの数カ月前までまったく違う印象の女の子だったという。順子さんが言う。
「走りまわったりせず、いつも私のそばから離れない、本当におとなしい娘でした」
きっかけは、3カ月ほど前に受けた鼻の手術だ。実は、友香ちゃんは、夜眠るのにも苦労する重度の“鼻づまり”だった。
順子さんが娘の鼻の異常に気づいたのは、生後間もなくのこと。母体の免疫が残っているはずなのに、風邪をひいたのか、すでに青い鼻水でつまっているように見えた。乳児期は常に眠りが浅く、まとまって数時間と休めた記憶がない。
慢性的な鼻づまりのため3、4歳になるまで耳鼻科や小児科に通ったが、一向に治らなかった。夫と相談して専門医を訪れ、重度の鼻炎とアデノイド肥大があると知り、手術を決断した。
アデノイド肥大とは子どもに特有の疾患で、上咽頭のリンパ組織が肥大し、鼻づまりやいびき、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などを引き起こすことで知られている。当時友香ちゃんは5歳。こんな小さな体にメスを入れるのか、と胸は痛んだが、医師への信頼と希望が勝った。
「術後、『お母さん、鼻がスースーするね』と言ったのを、今でも覚えています。以来、驚くほど活発になって、前よりよほど手がかかるようになりましたが、生き生きと成長していく姿をうれしく思っています」
執刀した鼻のクリニック東京(東京都中央区)の黄川田(きかわだ)徹医師に話を聞いた。
「鼻の粘膜は日中に比べ夜間に腫れる傾向があり、腫れると空気の通り道が狭くなるため、鼻呼吸がしづらくなる。本人も気づかないうちに、睡眠時に鼻がつまっている場合もあります」
睡眠時は鼻呼吸が理想だ。だが、鼻がつまると、効率の悪い口呼吸に頼ることになる。慢性的な寝不足に悩んだり、SASで来院するケースもある。睡眠の質が下がると、大人でも仕事の効率が下がる、疲れが取れないなどの悪影響が出る。発育途上の子どもの睡眠が阻害されると、運動能力や知能の発達を妨げてしまう恐れもあるという。
※AERA 2015年2月23日号より抜粋