子連れでライブ会場に来る人が増えている模様。その背景にあるものは、そして、幼い子どもへの影響は。業界を知る人に話を聞いた。
この記事の写真をすべて見る音楽関係の仕事もしつつ週3~4回、ライブに通うフリーライターの三宅正一さん(36)は、子連れでライブに来る観客の意識より、ライブのあり方の変化に着目する。
「ライブ会場に子どもを連れていく親が増えたのは、“野外フェスのレジャー化”が影響しているのでは」
2000年前後から野外フェスが盛り上がってきた。
「しだいに会場にトイレなどのインフラが整い、“子どもと一緒に楽しめる環境”ができてきたんです。そもそも屋内会場より、野外の方が子どもを連れていくハードルが低いですから」(三宅さん)
開放感ある野外フェスが、ロックファンの集う「コアライブ」からJポップアーティストが参加する「レジャー」に変化したことで、ますますエンタメ界に“子連れOK”のムードが広がった可能性はある。
アーティスト本人の意識も変わってきた。
「ライブ会場に託児所を設けるアーティストの方が増えました」とは、全国の会場での託児サービスを行う小学館集英社プロダクションの星野綾子さん。05年、東京ドームでのサザンのライブから始まり、氷室京介、Mr.Children、GLAYなど、多くのアーティストのツアーで託児所サービスを行ってきた。現在、サービスを利用するアーティストは、多い時で年に60件近くにもなるのだとか。
「ファンに育児世代が多いことが背景にありますが、主催者側が顧客サービスとして“ホスピタリティー”を重視されてきたことを感じます」(星野さん)
親も気兼ねなくライブを楽しみたい。そんなニーズに対応した試みだろう。「みんなにやさしいライブ」に、少し近づいているようだ。
だが、そもそもの問題がある。「大音響のライブは、子どもの健康に悪影響ではないのか?」という疑問だ。
東京医科大学八王子医療センター耳鼻咽喉科・頭頸部外科の本橋玲講師は、子どもの聴覚の感受性が大人より高いかどうかは不明としながらも、「特に乳幼児はライブに連れていくべきではないと思う」と話す。
「大人も子どもも衝撃的な大きな音を聞くなどして“音響外傷”になることがあります。これは難聴、耳鳴りなどを起こす耳の疾患。乳幼児は自分で異常を訴えられず発見が遅れ、障害が残る可能性がある。十分注意すべきです」
ママになった倖田來未さんのライブでは、子ども用イヤーマフ(耳覆い)を準備しているという。こうした配慮も広がっているのだ。
※AERA 2015年2月23日号より抜粋