代表団を派遣したものの、日本側の「拉致最優先」はほとんど独り言状態。迷走する日朝協議に見えるが、実は「演技」との見方も流れている。
徐大河(ソデハ)・特別調査委員会委員長(国家安全保衛部副部長)ら委員会の中心メンバーとは、委員会発足から4カ月でようやくの初対面。10月28日、伊原純一・外務省アジア大洋州局長ら日本側代表団が案内されたビルは平壌(ピョンヤン)市内を流れる大同江(テドンガン)のそばにあり、別の政府機関が入っていたが、委員会発足で急遽改装されたという。
徐委員長は「(訪朝は)正しい選択だった」と余裕たっぷりに日本側を持ち上げたが、拉致問題には触れないまま。日本側は「拉致問題が最優先課題だ」と独り言のように主張して帰ってきただけのように見える。
大きな期待で始まった日朝協議が迷走している。「夏から秋に」とされた調査報告はなく、中国・瀋陽や平壌に呼ばれて行ったが成果は乏しい。
気になるのは、まことしやかに、こんな観測も関係者の間で流れていることだ。
北朝鮮側の「ミスターY」を通し、すでに日本側に非公式の調査結果が伝えられ、拉致問題は「ゼロ回答」だったという話だ。ゼロ回答は、帰国した5人以外の生存者はなしを意味する。ミスターYは、伊原局長と秘密協議を重ねる北朝鮮側のカウンターパートとされる人物だ。
この話の前提は、日朝間ではしっかりパイプがあり、安倍官邸と外務省が描いたシナリオに沿って事態が動いている、ということだ。生存者なしでも、再調査をしたと証明しなければ日本の世論に説明がつかない。日本政府が盛んに今回の協議で「北朝鮮が特殊機関も徹底的に調査すると言った」と宣伝しているのは、アリバイ作りを丁寧にやってもらっている、というふうに読めなくもない。
ただ、日朝が「握って」いるなら、なぜ5月ごろに官邸や外務省の筋が期待値を高める情報を盛んに流したのか不可解なままだ。7日には韓国の東亜日報が横田めぐみさん死亡説を報じるなど、事態は不透明さを増す。
※AERA 2014年11月17日号より抜粋