働きながら介護をしている人にとって、職場の理解は重要。自分の苦い経験から、介護しやすい職場環境をつくった社員もいる。
横浜市の横澤昌典さん(42)には、忘れられない言葉がある。
「今から行っても、どうせ間に合わないだろう」
ある大企業に勤めていた時の上司の一言。がんを患う父(67)が危篤状態に陥り、呼び出しがかかって会議の席を立とうとしたとたん、こう言われたのだ。
幸い父は持ち直したが、その後介護のための時短勤務も認められず、介護休業を申し出ても「前例がない」と突っぱねられた。
「こんな会社にはいられない」
10年ほど前、横澤さんは退職。今は向洋電機土木(神奈川県横浜市)の総務部課長として働いている。5年前、倉澤雅彦社長に、「君の経験を生かし、社員が働きやすい会社の風土づくりに力を貸してほしい」と誘われた。横澤さんは、「かつての自分のような思いを誰にもしてほしくない」と、介護や育児の支援制度づくりに腕を振るう。
「実際に使える制度」にするため、介護をしていると届け出ている社員は、こまごまとした用事を済ませるため、1時間程度なら手続きなしで外出可とした。業務は原則2人で担当し、1人が急に休んでもフォローしあえる体制に。また、「積み立て休暇」は最大30日積み立てられ、傷病、ボランティア、子の看護、家族の介護、不妊治療などに利用を広げた。モバイル機器を利用して場所や時間にとらわれず柔軟に働けるようにする「テレワーク」も導入し、会社で許可した場合は在宅勤務も可能とした。
その過程で「子育てしやすい会社」という副産物も生まれた。社員25人なのに、5年で10人もの新しい家族が誕生した。横澤さんにも4歳の娘がいる。いまや父を励ます存在だ。
※AERA 2014年8月4日号より抜粋