猪瀬は石原が、政治家として院内にありながら、その価値を虚しいものと感じ、破壊したい衝動にかられていたことを『太陽の男 石原慎太郎伝』で書いているが、それは沢木が、ボーイのシーンですでに、半世紀近く前に見抜いていた。

 20代の沢木耕太郎と、今の猪瀬直樹が見た石原慎太郎は、まったく別の角度から見ているのだが、実はそこに結ぶ像は、焦点をひとつにしているようだ。

 文藝春秋で猪瀬さんの担当だった私は彼が都知事選に出ることには反対だった。そして、意に反して知事を辞職せざるをえなくなって、まわりから潮がひくように人がいなくなった時、くぐもる声で電話に出た猪瀬さんに「これで作家に戻って、思う存分書けるではないか」と言った。

 私は今でも、作家が政治家になることについては、異論がある。が、書き続ける猪瀬さんには本当に感心している。

下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。

週刊朝日  2023年3月3日号