でき上がったイメージを打ち破り、人々の心をとらえる製品を生み出し続ける。なぜ、ダイソンは打ち破るべきポイントを見つけられるのか。創業者に聞いた。

扇風機といえば何十年もの間、羽根があるのが当たり前だった。ただ、ダイソン氏はそのことに満足していなかった。

「フランス南部に家を持っていたのですが、そこはとても暑くて扇風機をよく使っていました。でも、顔に当たる風はバタバタして快適ではなかった。なんとかしてスムーズな空気の流れを作れないかと思ったのです」(ダイソン氏)

 その結果、行き着いたのが、羽根のない扇風機(2009年発売)だ。ハンドドライヤーの開発で発見した、空気の流れを生み出す技術を応用した。安全で手入れしやすいこともあり、世界中で人気を得た。

 家電製品で知られるダイソンだが、70年代半ばにダイソン氏が最初に考案した一般向けヒット商品は、前輪にボールを使った一輪の手押し車だ。これも出発点は、自宅を改築中に従来の手押し車を使っていて、タイヤがぬかるみで動かなくなったときの「イライラ」。そして、手押し車の車輪はタイヤという「常識」にとらわれなかったことが、ありふれた製品に革新をもたらした。

 革新的なアイデアに大事なものとしてダイソン氏が強調するのが、すぐに結果を求めない姿勢だ。

「今までなかったようなテクノロジーの開発には、長い時間がかかることもある。長期的な視野で考えることは、とても重要です。短期的な視点に立った判断は、すべてダメな判断です」

 ダイソン氏はまた、他人の言うことに耳を貸さないことが大切だとも話す。

「助言はその人の経験がもとになっているので、どうしても慎重になるように勧める内容が多い。明日は今日とは違うのですから、今日の経験は明日の役には立ちません。だから私は、一度も助言をしたことはありません。秘密を隠しているからではなく、みんな、自分でリスクを冒したほうがいいと思っているからです」

 こうも言う。

「私は若い人を雇うのが好きなのですが、それは彼らは経験がなく、自分で道を切り開こうとするからです。ダイソンのエンジニアの平均年齢は26歳です」

AERA  2014年4月28日号より抜粋