11月も半ばを過ぎると福島は朝晩の気温がぐっと下がる。小さな電気ストーブがあるだけの部屋で、Aさんは用意された寝袋に入って寝た。求人段階では仕事はすぐあると説明されていたが、業者は「ちょっと待って」と言うばかり。しかも「日当1万5千~3万円」のはずが、1万2千円になったと説明された。

「だまされた!」

 後悔したが、お金がないのでプレハブから出ていくことはできない。風呂にも入れず、トイレは近くのコンビニで借りた。

 12月に入ると、Aさんは近くの2階建ての民家に移る。建設業者が借りたという民家が「寮」になり、2階の一部屋をあてがわれた。それでも仕事はない。寮には米だけが置いてあり、それで何とか食いつないだ。こうして福島に来て1カ月近く経った12月中旬、ようやくAさんに原発の仕事が入る。

 だが給与の支払いは2カ月先だった。しかも、「交通費支給」のはずが、寮からJヴィレッジまで片道約50キロを自分の車で通ったのにガソリン代は支給されない。ガソリン代にも事欠くAさんは、建設業者に毎日2千~3千円前借りをするようになる。借金は「日当の1万2千円」から相殺された。さらに、仕事がある日は「寮費」と称し「1日2千円」引かれたという。

AERA  2014年3月17日号より抜粋

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