「地産地消を重んじ自然食を食べる人と、ジャンクフードばかり食べる人は、やっぱり相いれない。日本人は保守やリベラルなど、政治的レッテルを貼られることを嫌いますが、食というフィルターを通すと、建前ではなく、生活の延長として政治をどう考えているのかが見えてくるんです」(速水さん)
ジャンクフードやB級グルメ、コンビニの「メガ盛り」など量や値段を重視する人たちをフード右翼、現在の大量生産・大量流通のシステムに批判的で、健康志向の強い人たちをフード左翼と呼ぶ。「右」「左」の定義についても議論があるところだが、グローバリズムや新自由主義経済に賛同し、愛国など道徳観を大切にする人を右、現状に批判的で人権や平等な分配を重要視する人たちを左とした。
では実際に、消費行動と政治意識は関連があるのだろうか。
アエラでは1047人を対象にインターネットでアンケートを行った。結果、コンビニで弁当や総菜を購入する回数の多い人ほど、社会保障は不十分でも税金などの負担は軽くすべき、と答えるなど、比較的「右」傾向が強く、遺伝子組み換え食品や食品添加物を気にする人は、原発再稼働に反対する人が多い「左」傾向が強かった。
大手出版社に勤めるBさん(36)の妻(45)も典型的なフード左翼の一人だ。フランス人で大学の講師。もともと、米国的なグローバリズムには反対で、世界的に展開するハンバーガーチェーンでは食べず、フェアトレードや有機野菜を選ぶ傾向が強かった。
●夫は「右翼」妻は「左翼」
そんな妻が突然、「今日からベジタリアンになる」と宣言したのは昨年10月。米国の食肉産業の実態を告発した本を読んだことがきっかけだった。
「大規模に工業化され、劣悪な環境で育てられた動物たちの肉や牛乳は消費したくないということでした」(Bさん)
フランス生まれで、もともとフォアグラやバターなどが大好きだった妻だが、魚やチーズ、一切の動物性食品を食べるのをやめた。困ったのは、小学生の2人の子どもの食生活だ。話し合った結果、妻が夕食を担当する平日はベジタリアン食に、Bさんが担当する週末は肉や魚を食べさせることになった。
「私はガマンできますが、育ち盛りの子どものことは心配。年に数回、私の両親と食事する機会があるのですが、その時くらいは、ベジタリアンを貫くのはやめてほしい。味覚って、その人の育ってきた環境やアイデンティティーに深く関わっていると思うので、否定されると傷つくんですよね」
前出の速水さんによれば、原発事故後、顕著になっているのが、家庭内での分断だ。
「これまで、選挙で夫と妻がどの政党に投票するかはあまり家庭内で話されてこなかったし、決定的な問題にはならなかった。ところが、放射能の食物汚染が問題になってから、食を通じた政治的な主張の違いが大きな対立を生んでいるんです」
家庭内フード左翼は、A子さんやBさんの妻のように、女性の場合が多い。大きなきっかけとなるのが妊娠や出産だ。
有機野菜や自然食品の宅配サービスを行う「大地を守る会」広報の栗本遼さんによれば、子どもを持ったことで食の安全に目覚め、入会する女性が多いという。