「家族の健康だけでなく、消費によって生産者を応援したり地球環境に貢献したりしたいという『エシカル消費』に意識の高い方も多いですね」
ボリュームゾーンは30~40代。首都圏に住む、比較的年収の高い家庭が多いという。
「ライフスタイル誌よりも、経済紙に広告を出すと反応が良い。経済のトレンドに敏感な人たちが関心を持っているように感じます」(栗本さん)
●ハラ派とアタマ派
とはいえ、富裕層で情報感度の高い人たちがフード左翼なのかというと、そう単純ではない。アンケート結果を見ると、ふだん高級スーパーで買い物をする人や、ランチに1500円以上かける人は、格差は大きくなっても経済全体の成長を望む新自由主義に賛同する傾向が強い。
「日本のフード左翼は、アッパーミドルが中心ではありますが、新自由主義との相性もいい。ライフスタイルとしてフード左翼的な食生活をしている人もいるので、政治思想的には二つに分かれる」(速水さん)
東京・青山の国連大学前広場で毎週末開かれる「青山ファーマーズマーケット」。約50の野菜農家やパン屋が出店するこのイベントのコンセプトは「『よい生活』は、『よい食事』から。」だ。ロマネスコやちりめんキャベツなど珍しい野菜も目立つ。トマトが1個250円、きゅうりが3本で280円など、スーパーよりも高い野菜を楽しそうに買っているのは、カジュアルだが高級そうな服を着、子どもや犬を連れている家族連れが多かった。
ティラミスやナタデココなど、日本の食の流行史を描いた『ファッションフード、あります。』の著者で、フードジャーナリストの畑中三応子さんによれば、日本が空腹を満たすために「ハラで食べていた」時代から、ファッションやイデオロギーとして消費する「アタマで食べる」時代に突入したのは1970年代からだという。そして、その流れはゼロ年代から二極化の傾向を見せはじめたと指摘する。
「安倍政権は成長戦略の一環として、健康食品の機能性表示を現行の加工食品だけでなく、肉や魚、野菜などの生鮮食料品にまで規制緩和する方針です。こと、栄養に関して、ますます情報は増える。それを意欲的に消化し先鋭化する人たちと、まったく関心を持たない人たちに分かれるでしょう」
『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』の著書がある博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さんは、日本の若年層にはすでにその傾向が出てきているという。
「昔は都市部と地方が二項分立していましたが、今は都市も田舎も関係ない。自宅の半径数キロの『地元』から出ず、昔からの仲間とのつながりを大切にゆるく暮らす、新保守層『マイルドヤンキー』が増えています。彼らが今後、消費のマジョリティーになっていくでしょう」
●ファミレスでジモト愛
彼らは、地元に住みながらも、近くで作られた野菜や商品を消費するわけではない。巨大資本の大型ショッピングモールで買い物をし、全国一律のファミレスでご飯を食べながら「ジモト愛」を語るのだ。
「彼らは、生活圏を離れてまで選択肢を広げようとはしない。お祝いや記念日などハレの日の食事であっても、モールの中のふだんよりちょっといい店に行くぐらい。もちろん、消費行動を通じて、世の中を変えていこうという意識もありません」
10年後、あるいは数年後、日本の食を巡る思想地図はどう変わっているのだろうか。
※AERA 2014年3月10日号