海外進出する企業が増え、それとともにグローバルな能力も求められるようになった。国が違う相手に思いを伝え、仕事をしていくために必要になるのは交渉力。しかしそれは必ずしも、語学力に頼ったものばかりではないようだ。
三菱商事新エネルギー・電力事業本部の鈴木圭一さん(44)はこれまでに、欧州の部品メーカーのバイアウトや日本企業による米国企業買収のアドバイザリー業務など数々の案件を手掛けてきた。いまの部署では、海外での再生可能エネルギーや火力発電の事業投資を推進している。常に4、5カ国の関係者と交渉をしながらの仕事。突破力が求められることもあれば、人脈を張り巡らす浸透力が勝負のカギを握ることもある。
そして最後の詰めは「交渉力」がモノを言うと感じている。それは単に語学力の問題ではない。
「交渉相手に刺さるのは語彙力や比喩力。そしてある意味ちょっと鈍感になって、ストレートに思いを伝えること。相手がストンと腹落ちする言葉を投げかけて、相手をその気にさせることが大切です」
難航したフランスの電力会社との価格交渉。年度末ぎりぎりまで長引いた交渉の最後に、
「今日が3月末最後の営業日だ。俺は今夜のフライトで東京に帰る。このディールをお前とやりたいが、こればかりはどうしようもない」
相手もディールを成立させたい。同じサラリーマンとして、「年度末最後の営業日」の意味もよくわかる。大企業ならではの時間的な制約や年度ごとの予算配分の仕方について共感もある。「お前とやりたい」と投げかけて連帯感を持たせる。そうした要素を積み重ね、価格交渉をまとめあげた。
「失敗したディールもたくさんあります。グローバルに活躍するにはさまざまな能力が必要ですが、自分のスタイルに合わないものもある。常に好奇心を持って新しいことに挑戦し、その実戦の繰り返しのなかで、自分なりに磨いていった」(鈴木さん)
※AERA 2013年12月2日号より抜粋