今回は趣向を変えて再発盤をご紹介。いざ、バック・トゥ・80s(エイティーズ)! といっても、小林克也氏「ベストヒットUSA」よろしくのゴージャスな西洋世界のそれとはもちろん違う。いわゆる日本の「バンド・ブーム」がその栄華を極めた時代の、R40世代にとっては何となくムズがゆく甘酸っぱいメモリーの断片を拾ってみようかなと。

「え、どこが最新鋭の音楽なの?」というツッコミも聞こえてきそうだけど、ここではあくまで「バンド・ブーム」を知らない若い世代にとって、こういった音楽が今どれだけフレッシュに聴こえるのかという、興味本位からの効果測定も踏まえて話を進めていきたい。

 さて、「バンド・ブーム」の起点をどこに見るかという議論は常々行なわれているようで、古くは60年代半ばのベンチャーズによるエレキ・ブームや、そこから派生したGSブームなんかがそれにあたるとも言われている。テレビ・ラジオの音楽番組の成熟とともにやってきた本格的なブームの到来は、やっぱりサザン、ツイスト、RCサクセション、ARBらがメジャー・シーンに続々と出てきた70年代の後半から80年代初頭にかけてだろうか。

 その後最初の“天王山”とも言うべき大ブームがやって来る。80年代半ばから90年代前半ぐらいにかけてだっただろうか。ウィラード、ラフィンノーズ、有頂天の「インディーズ御三家」をはじめ、BOOWY、ハウンド・ドッグ、レッド・ウォーリアーズ、ストリート・スライダース、筋肉少女帯、X(エックス)、さらにはブルーハーツ、ユニコーン、ジュン・スカイ・ウォーカーズ、ザ・ブームの「バンド四天王」、ガールズ系では、レベッカ、プリンセス・プリンセス、SHOW-YA…枚挙に暇がないまさにバンド・バブル期。折りしもぼくは中学生で、洋楽からの“洗礼”があった一方で、ごく当たり前のように彼らの音楽に触れていた気がする。そういえば、学校でする「イカ天」の話は、好きな女のコとの唯一の接点だったっけ。ブランキーがどうの、大島渚がどうのって、とりとめもなく。

 以上、オジサンの薀蓄のようなプロローグを晒した上で、改めて本題へ。バンド・ブームをリアルに体験したぼくが思わず「!」となった再発アイテム。それがローザ・ルクセンブルグという伝説のバンドのお宝ボックスなのだ。わずか1年半の活動期間に残した全アルバム/ミニ・アルバム4枚(紙ジャケ)に、貴重音源収録ディスク、さらには秘蔵映像入りDVD付きの至れり尽くせりで…と、だしぬけにそんなことを言われてもピンと来ない人が大半だと思うので、ローザ・ルクセンブルグの説明を簡単に。

 「どんと」というミュージシャンをご存知の方は、若い人の中にも多いのではないだろうか。京都が生んだ稀代のゴッタ煮バンド「ボ・ガンボス」のヴォーカル/ギターとして、活動期間中の80年代後半から90年代半ばにかけての日本のロック・シーンに強烈なインパクトを与えた男だ。どんとは、2000年に37歳の若さでこの世を去ったが、本隊ボ・ガンボスともども現在も根強い人気を誇り、またミュージシャンの中にもファンが多く、ソウル・フラワー・ユニオン、UA、くるり、フィッシュマンズ、佐野元春、奥田民生、甲本ヒロトといったヒトくせもフタくせもある“盟友”たちが彼らに絶大なる支持を送り続けている。たしか忌野清志郎やチャボもライヴ共演を熱望するほどの入れ込みようじゃなかったかな。ボ・ガンボスについてはまた別途機会をたっぷり設けてご紹介したい次第。それぐらい素晴らしいバンドなので。

 で、ローザ・ルクセンブルグは、そのボ・ガンボスの前身となる、どんととベース/ヴォーカルの永井利充によって1983年に結成されたロックンロール・バンド。のちのボ・ガンボスの快進撃を俯瞰して見れば、いわゆる“どんと前史”のような音が並ぶとも言えるのだが、それでも当時においてこのアクの強さとユーモア・センスの鋭さ、チャック・ベリー~ローリング・ストーンズ体系のルーツ型ロックンロールを昇華した音の鳴りは、「先鋭的」という言い方が適当かどうかは分からないが、周囲を驚かせ惹き込むだけの説得力が十分にあった。いやむしろ、今聴いてもまったく古びていない、そんな気さえする。ちなみにこのバンド名、マルクス主義で知られるポーランドの同名政治家から拝借しているということで、本音もギャグもテキトーも、むき出しのソウルとして温かく吐き出す、実にどんとらしいネーミングだと思う。

 今のハタチぐらいのコたちがどんな音楽に夢中なのかは皆目検討もつかない。けど、仮にドレスコーズ、OKAMOTO’S、在日ファンクのような地に足が着いた最近のロック/ファンク・バンドが好きだとしたら、キミはきっとローザ・ルクセンブルグを気に入るハズ。と、強引すぎるレコメンドかもしれないけど、でも彼らに「新しさ」を感じる世代は、きっとローザに古くささを感じないだろう、極めてシンプルな理屈。

 作品再発の根本的な目的が、「古典の存在価値を再び世に問う」ということであれば、その全てが単純なノスタルジーだけで“アンパイ”に塗りつぶされるというのはどうにも不健全というか、それこそあまりにも先のない話なんじゃないのかなと。だからこそ、今をトキメク彼らのようなバンドのファンのコたちには、特に未聴ならば、ローザやボ・ガンボスをガンガン聴いてほしいのだ。最新鋭かどうかを決めるのは結局自分自身だし。聴けば分かるさ、酸いも甘いも色々と。ぼくは、久々に聴き返してみて新しい発見がいっぱいあったけどなぁ。

 今回はあまり楽曲自体の良さに触れることができなかったが、6月発売とアナウンスされているこのローザ・ルクセンブルグのボックス再発は、殊のほか激しくぼくのハートに火をつけたようで、このまま終わるのも気持ち悪いし、またローザ~ボ・ガンボス・ファンにも顔向けができないので、次回以降どこかでまたローザの魅力、魔力、アレコレ語らせてもらいたい![次回6/5(水)更新予定]

ローザ・ルクセンブルグ『タイトル未定』