日本は先進国で唯一、エイズ患者が増えている国だとご存じだろうか? 目立つのは中高年患者の増加。エイズは、エイズウイルス(HIV)に感染しても、すぐには発症せず、個人差はあるが2~10年ほどの潜伏期間を経て発症するという。原因不明の体調不良が実は…というケースもあるようだ。

 大阪市に住む男性Aさん(52)は03年6月、体調を崩して入院した病院でエイズと診断された。その2年くらい前から、全身が真っ赤に腫れあがったり、肺炎になったりするなど、体調が慢性的に悪かったが、病院に行っても「アトピー」や「膠原(こうげん)病の疑いがある」などと診断されていたという。

 ある朝、勤務先に向かう途中、激しい息切れで駅の階段がのぼれなくなり、救急車で病院に運ばれた。その時にはじめて、ニューモシスチス(カリニ)肺炎を発症しており、HIVに感染していると告げられた。

「その時は、ショックというよりも安堵(あんど)感の方が大きかったですね。今まで治療しても体調が一向によくならなかったので、ようやく原因がわかったかと」(Aさん)

 感染経路については、思いあたるところがあった。30 代前半のころ、毎夜のように仕事が終わると飲みに行き、バーやサウナで知り合った男性と性交渉をもっていたのだ。

「今考えると、家族にもカミングアウトできず、将来の展望も持てなかった。投げやりな気持ちだったんだと思います」

 体調を崩した当初は、「もしかしたら…」とエイズの可能性を考えたが、頻繁に病院に通っていても診断されなかったので、大丈夫だと思い込んでいたという。

 肺炎の治療自体は6カ月の入院で済んだが、翌年には髄膜炎で再び入院。4年前には、高容量のステロイド剤治療の副作用からか、特発性大腿(だいたい)骨頭壊死(えし)症になり、両足の股関節を人工股関節に置き換える手術を受けた。今はとくに日常生活に支障はないというが、Aさんは、

「物忘れが激しい。健康的な生活を心掛けていますが、健康な人よりも、血圧や中性脂肪値など生活習慣病のリスクも高いように感じます」

 と不安を漏らす。周囲の同世代の友人と比べると、自分の方が10年くらい年をとるのが早いのではないか、と思うこともある。実際、HIV患者の多くが、長期間にわたる治療によって、健康な人に比べて肉体の衰えが早い傾向にあるという。

 さらに、収入にもよるが、月に自己負担が5千円から2万円かかるという治療費もばかにならない。

AERA 2013年10月7日号