ノーエビ、ノーライフ。そう口にするほどエビを愛していた女性(36)に、別れが突然やってきた。
今年2月の日曜の深夜。後頭部に突然「違和感」を覚えた。熱を帯びて、かゆい。違和感は顔全体に広がり、徐々に首から下へと降りていく。これまでも疲れがひどい時などにじんましんが出ることはあったが、今回は、息もうまく吸えない。
東京都の救急相談センターの番号#7119を携帯電話に登録し、いつでも掛けられるようスタンバイした。腫れは数時間かけて足のつま先まで到達。一晩中眠れなくて、1時間ごとに自分の顔や手を携帯電話で撮影した。まぶたや唇も腫れ、口は閉じられない。写真の中の自分はまるで別人だった。
翌朝10時、目が少しだけ開くようになり、皮膚科へ。医師から「昨日の夜、何を食べましたか」と聞かれたが、その日は午後5時から友人とスペインバルで飲み、エビ、イカ、アワビ、ムール貝、カキなど思い当たる食べ物が山ほどある。アレルギー検査をお願いすると、ぶっちぎりでエビに反応が出た。
「今後エビは一切食べない方がいい」と、 医師に“絶縁”を勧告された。
成人の食物アレルギーに詳しい国立病院機構相模原病院の福冨友馬医師によると、ここ数年、成人患者が急増しているという。
簡単に言えば、アレルギーは体の外から入り込む異物から、体を守ろうとする免疫システムのひとつ。日本アレルギー学会の秋山一男・前理事長は、「アレルギー反応が現れるまでには2段階あります」と説明する。
まず異物(アレルゲン)が体に入ると、リンパ球がアレルゲンに対抗するために「IgE抗体」を作って準備をする。このスタンバイ状態を「感作(かんさ)」と呼ぶ。そこへ、再びアレルゲンが体内に入ると、今度はIgE抗体が攻撃を開始。かゆみのもとになるヒスタミンなどを放出するため、皮膚や鼻、気管支の粘膜などが腫れ、かゆみやくしゃみ、ぜんそくなどのアレルギー反応が出る。中でも食物アレルギーは、体の免疫システムが食べ物に含まれるたんぱく質を異物と認識してしまうために引き起こされる。
冒頭の女性のように、ある日突然発症するのは、「おそらく体内でIgE抗体がだんだん増えていき、突然症状として現れると考えられます」(福富氏)という。好物だったり、単品ダイエットなどで特定の食物をたくさん食べている人が食物アレルギーになるケースも少なくない。一方で、たくさん食べてもアレルギー反応が起きない人もいて、発症のメカニズムは分かっていない部分もある。
※AERA 2013年7月8日号