中古を含め気長に探してほしい
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 1976年は前年の4割増しの46人/グループが来日した。ビッグバンドとトラッド系の3倍増が効いている。前者では秋吉敏子=ルー・タバキン(1月)、カウント・ベイシー(4月)、ギル・エヴァンス(5月)、メイナード・ファーガソン(6月)、デューク・エリントン(10月)ほかが、後者では「プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド」(5月)ほかが来日した。モダン・コンボはといえばジャッキー・マクリーン=ケニー・ドリュー(3月)、「ザナドゥ・オールスターズ」(4月)、フィル・ウッズ=ズート・シムズ(5月)など、多くをハードバップ系が占め、時代の先端派はマッコイ・タイナー(6月)、キース・ジャレットとロニー・リストン・スミス(11月)くらいのものだった。保守化にも思えるこうした傾向は、スティープルチェイス、ミューズ、ザナドゥといった新興レーベルが起こしたハードバップ・リバイバルの潮流に乗った結果にほかならない。

 日本で活動していたドナルド・ベイリー(ドラムス)を除く18人/グループが24作を残している。11人/グループの15作がスタジオ録音(9作が日本人と組んだリーダー作、ゲスト/サイドマン参加作)、9人/グループの9作がライヴ録音だ。ジョン・ルイスの『ソロ/デュオ』(Trio)、秋吉=タバキンの『ロード・タイム』(RCA)、クラーク・テリーの『ライヴ・アット木馬Vol.1-3』(Crown)は入手が難しく、マリアン・マクパートランドの『荒城の月~ライヴ・イン東京』(Trio)は粒揃いではなく、アニタ・オデイの『ライヴ・アット・ミンゴス』(同)は贔屓目に見ても水準にとどまる。候補作はジミー・レイニーの『ライヴ・イン・トーキョー』(Xanadu)、ジョニー・グリフィンの『ライヴ・イン・トーキョー』(Philips)、デューク・ジョーダンの『ライヴ・イン・ジャパン』(Steeplechase)、ジム・ホールの『ライヴ・イン・トーキョー』(Horizon)とした。

 ジミー・レイニーは1951年にスタン・ゲッツのグループに加わって名をあげたが、その繊細な感覚はおよそ一般受けするものではなく、通好みの奏者だったと見ていいだろう。1950年代から1960年代にかけてはルネ・トーマをはじめ、我が国でも手本にした奏者は少なくないとされる。ミュージシャンズ・ミュージシャンの典型だったとも言えそうだ。健康を害して1960年代の半ばから活動は断続的になるが、1972年に本格的に復帰すると繊細さは失われ、良くも悪くも歌心に富む通り一遍のスタイルに変貌していて驚かせた。とはいえ名声は健在で、ギター・フリークの筆者はレイニーだけを目当てに「ザナドゥ・オールスターズ」の大阪公演に駆け付けた次第だ。入りは芳しくなかったと記憶するが、期待のレイニーは言い淀みは連発するは指はもつれるは、なんとも惨憺たる出来だった。それだけに、のちに本作の流麗でよく歌う快演に接したときは嬉しいやら口惜しいやら。

 推薦盤はレイニーが参加した東京公演の録音をまとめたものだ。1曲目はオムニバス盤『ザナドゥ・アニヴァーサリー』に、2~9曲目はレイニー名義の『ライヴ・イン・トーキョー』に、 10~11曲目はバリー・ハリス名義の『トーキョー1976』に収録されていた。オリジナル盤収録曲から見ていくと、ミディアム・ファスト系の出来がいい。歌心豊かに軽やかにスイングする《ハウ・アバウト・ユー》、ギターにうってつけのボッサに乗った《ウォッチ・ホワット・ハプンズ》、ポップな香りすら漂うテーマ・ソング?《ヒアズ・ザット・レイニー・デイ》といった具合だ。唯一のスロウ・バラード《ダーン・ザット・ドリーム》も情感豊かな佳演となった。一方、ファスト系の《アンスロポロジー》《枯葉》《星影のステラ》《チェロキー》は流麗でテクニカルだが、展開不足や言い淀みが見られ今一つ吸引力に乏しい。結果的には先行録音が勝るが僅差なので選曲の問題ではないか。

 追加曲に移って、先行録音のファスト系《ジャスト・フレンズ》はなかなかの快演だ。後日録音のクインテットによるファスト系《グルーヴィン・ハイ》ではアルトとギターのテーマ・ユニゾンは気持ち悪いが、マクファーソンが快演を、レイニーとハリスが好演を見せる。続く《ブルーン・ブギ》ではマクファーソンは不可解、レイニーは水準、ハリスばかりが気を吐く。均せば準快ライヴだが、こうしたさりげなく素敵な演奏を愛でてこそ通というものだろう。『ジ・インフルエンス』と並ぶ復帰後の代表作としてお薦めする。上記リンク先では法外な値段が付いているが仏EPM盤や中古を含め気長に探してほしい。[次回6/17(月)更新予定]

【収録曲一覧】
Anita O'Day Live In Tokyo, 1975

Live In Tokyo 1976 / Jimmy Raney Trio (Sp-Jazz Collectors [Xanadu])

1. Just Friends 2. How About You 3. Darn That Dream 4. Anthropology 5. Watch What Happens 6. Autumn Leaves 7. Stella By Starlight 8. Here's That Rainy Day 9. Cherokee 10. Groovin' High 11. Blue 'N' Boogie

Jimmy Raney (g), Sam Jones (b), Leroy Williams (ds).
Track 7: Raney only.
Tracks 10-11: Charles McPherson (as), Barry Harris (p) added.

Tracks 1-2-3-5-7-8: Recorded in Tokyo, April 12, 1976.
Tracks 4-6-9-10-11: Recorded in Tokyo, April 14, 1976.

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。