全国のゆるキャラが人気を競う「ゆるキャラグランプリ」で、ちょっと異色のキャラが上位にランクインしている。腹巻きを巻いたほろ酔いの中年男性、その名も「ちっちゃいおっさん」。これは兵庫県尼崎市出身でエンターテインメント企画会社社長の池田進太郎さんが、亡くなった父と自分の故郷をイメージして作ったものだ。
市の公式キャラクターではないが、可愛さをアピールするキャラが並ぶなか、「ちゃんとお礼言わんかい!」などと説教臭い「おっさん」は逆に目立つ。だが10月、角田美代子被告を中心とした連続変死事件、通称「尼崎事件」が発覚すると、「おっさん」はなんと10位圏外に!一時は7位にまでいったのに、もしや事件のせい?
早速、尼崎市役所を訪ねると、担当者はこう苦悩を明かした。
「事件以来、市役所にまでマスコミが押しかけ、混乱しています。今年4月に市長の肝煎りで都市魅力創造発信課ができ、市のイメージアップ戦略が本格始動したところだっただけに、風評被害はかなり痛い。いつの間にか『尼崎事件』なんて名前もついているようですし……」
被害は風評にとどまらず、実害にまで広がっている。11月上旬、尼崎市は中学生が大人の仕事現場を見学する「職場体験」を企画しており、西宮市のある中学が参加することになっていた。市役所見学の希望者は当初15人いたが、事件発覚後、みな行き先を変え、予定通りに見学に来たのはたったの3人だった。
そもそも尼崎とはどんなところなのか。兵庫県南東部で大阪府との県境。人口は45万人。市内を阪急、JR、阪神の3路線が横切っているため大阪にも神戸にもアクセス抜群だ。阪神工業地帯の中心部でもあり、日本の高度成長を支えてきた。
2006年、尼崎市が近畿2府4県の尼崎市外居住者を対象に行った調査では、尼崎市のイメージを良いと答えた人は約2割なのに対し、悪いと答えた人は約5割にのぼった。尼崎のイメージとして61・9%の人が治安が悪い、57・6%の人が汚いなどと答えている。しかし、同種のアンケートを尼崎居住者にとると、いずれの項目も市外の人より良い評価となった。
「今の尼崎をよく知らない人に、漠然と『公害の町』などと古いイメージを持たれているのが悩ましい。キレイな町並みも増えているのに。現実とイメージのギャップを埋めることが一番の課題です」(市担当者)
たしかにJR尼崎駅前は美しく整備され、立派なショッピングモールがそびえ、いわゆる下町の印象とは程遠い。
「町はキレイになったけど、下町らしい人情の厚さはしっかり残っているんですよ」(同)
※AERA 2012年11月26日号