実際、政府の新型コロナ対策を担う専門家会議のメンバーには、座長を始め、感染研に関係する人物がいる。PCR検査を民間まで広げることには消極的だったことがうかがえる。

 では、保険適用されたことでようやく、誰もが近くの医療機関で検査を受けられるようになるのか?

 長年、感染症の研究と治療に携わってきた、グローバルヘルスケアクリニック院長の水野泰孝医師は言う。

「今までと一緒で、検査依頼を出せるのは『帰国者・接触者外来』(全国約860カ所/非公開)の医師のみ。一般の病院や診療所では検査をすることはむずかしい」

 今回の保険適用を受け、感染者や感染した疑いのある人が次々と一般の診療所を訪ねることが予想される。そうすると、他の病気などで受診した患者らと同じスペースで待つことで、感染の恐れが出てくる。

 さらには、多くの人が訪れれば風評も出かねず、すでに「呼吸器症状がある人の診療はしたくない」と言う医師も出るなど、現場は混乱しているという。

 水野医師はこう訴える。

「まずは、誰でも近くの診療所で検査を受けられる、という誤解を解くことが必要。その上で、今後は一般の診療所でも検査ができる体制を整えてほしい」

 クルーズ船の対応を始め、これまでに専門家会議がとった対策が、功を奏しているとは言い難い。

 感染研とは誰のための研究所なのか──。

 前出の上医師が指摘する。

「今は感染研のための感染研になっている。政治に影響されず、真に国民の健康を第一に考える組織にすべきだ」

 自国で発生した感染症の全体像を把握する調査は必要不可欠だが、人の生死を重視しない研究でいいはずがない。(本誌取材班)

週刊朝日  2020年3月20日号