俳優とかダンサーとか、パフォーミングアーツとか、そんなカテゴライズは必要ない。どこにいても、目の前にいる相手と、あるいは自然と、都市と呼応しあえるような、特別な肉体を持つ人だ。そんな彼が、初めて海外作品の主演に挑んだ。
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カザフスタンで映画を撮りませんか? 2年前、森山さんの元に、突然、そんな話が舞い込んだ。カザフスタンが、ユーラシア大陸のへそにあたる部分に位置していることを確認して、“一体どんなところなんだろう?”と、シンプルに興味を持った。
「昔から、ノマドと呼ばれる遊牧民の暮らしに関心がありました。今は、そんな暮らし方をしている人はほとんどいないにしても、国という概念にとらわれない生き方をルーツに持つ人たちが暮らす場所に、すごく魅力を感じたんです」
映画には、監督が2人いた。日本の竹葉リサ監督は、海外共同制作映画に携わるのが目的で、カンヌ国際映画祭のプロデューサーズネットワークに参加。カザフスタンのエルラン監督と出会ったことで、この企画が実現したという。
2018年夏、映画の撮影が行われる前、森山さんは、ノルウェーとフランスに、それぞれ2週間ずつ滞在していた。
「ノルウェー人のダンサーと何か作ろうという話になって、2週間あーだこーだと、肉体をフルに使ったクリエイションをした後で、フランスのパリから南に電車で1時間のところにあるモンレアルという街に行きました。そこには、古いお城を改築してアーティストのレジデンス施設にしているところがあって、パリで活躍する日本人ダンサーの伊藤郁女(かおり)さんと2人で、今度はまた別のクリエイションをしました。城といえば聞こえはいいんですが、周りに何もなくて。週に2回、食料品を買い出しに行くことだけが、唯一の気分転換でした(笑)」
そこからのカザフスタン入りだったが、ヨーロッパでの室内を拠点にした物づくりとは違い、今度は完全に自然が相手。撮影現場ではしょっちゅう予期せぬ事態が起こった。