嬉しかった。見上げるとどこかで見た顔というより声ですぐわかった。ビリー・バンバンの兄弟二人だった。私もその頃は放送の仕事が多く、顔を知っていたのだろう。グリーン車には他に数人乗っていただけだった。
どう工面したのか、気がつくと彼等が用意したタクシーに一緒に乗って東京に向かっていた。助かった。明日の仕事に間に合う。東京圏内のタクシーの拾えるところまで来て、私は他のタクシーに乗り換えて自宅に向かう。時刻は一時過ぎになっていた。
もしあの時、二人が声をかけてくれなかったらと思うとぞっとする。
ほんとうに有難かった。お礼状を書きたかったが、忙しさにまぎれてそのままになってしまった。いつかお礼を言いたいと思いつつ月日が過ぎた。
その後二人は病に倒れてしばらくの休息の後、復帰した。すっかり時期を失したが、この誌面を借りて心からお礼申し上げたい。
※週刊朝日 2020年1月24日号