世界でとりわけフランス政府にとって、今回の“爆弾発言”は重要な意味がある。長年フランス側に利益をもたらしてきた「金の卵を産む鶏」を失わないよう、発言をもとに日本政府や日産側への攻勢を強めたいためだ。
仏自動車大手ルノーは経営危機に陥った日産の大株主になり、1999年にコストカッターとしてゴーン被告を送り込んだ。大規模なリストラで業績は回復し、日産はこれまでに配当などで約1兆円をルノー側に“上納”させられてきた。生き残りのために日産を手放せないルノーは経営統合を狙っているが、日産の日本人経営陣は独立性が失われるとして否定的だった。
経営統合を進めようとしたゴーン被告を日本人経営陣や検察庁が追い出したことが証明されれば、日本側にとっては大きな痛手だ。フランス政府やルノーは、日産への関与を強めようとしてくるとみられる。
東京地検は会見を受けてすぐに次のようなコメントをホームページで公表した。英語版もあり、世界に向けて情報発信した。
「自身の犯した事象を度外視して、一方的に我が国の刑事司法制度を非難する主張は、我が国の刑事司法制度を不当におとしめるものであって到底受け入れられない。日産と検察により仕組まれた訴追であるとの主張は不合理であり、全く事実に反している。当庁としては、適正な裁判に向けて主張やそれに沿う証拠の開示を行ってきたところ、被告人は我が国の法を無視し、処罰を受けることを嫌い、国外逃亡した。我が国で裁判を受けさせるべく、関係機関と連携して、できる限りの手段を講じる」
日産は7日に次のような声明を出している。
「これまで当社は、適正かつ公正に内部調査を実施し、ゴーン氏による数々の不正行為を認め、経営者として不適格であるとの判断により、社内でのすべての役職を解任いたしました。同氏による不正規模は、報酬虚偽記載や会社資産の私的流用など多岐にわたり、極めて甚大なものです。社内調査において判明した不正行為について、責任を追及するという基本的な方針は、今回の逃亡によって何ら影響を受けるものではありません。不正行為により被った損害の回復に向けた財産の保全や損害賠償請求など、適切な法的手続きを継続して行っていく方針です」
日本政府はゴーン被告やキャロル容疑者の身柄引き渡しを求めていくが、実現の見込みはたっていない。そもそも日本は、犯罪人引き渡しの条約を米国と韓国としか結べていない。米国は100カ国以上と結んでいるのに、少なさが目立つ。日本に死刑制度があることも要因とされる。
レバノン政府側は表向きは日本政府との対立は避けており、国際刑事警察機構(ICPO)から要請があればゴーン被告らから事情を聴くとしている。本音では、レバノン国民の支持もあるゴーン被告らを引き渡す考えはないようだ。
ゴーン被告は日産幹部や検察との対決姿勢を鮮明にしている。会見では次のように宣言した。
「私は汚名をそそぐという、ミッションインポッシブルをやろうとしているのです。日産を建て直すために来たときも当初そう言われたが、達成しました。今回も必ず汚名をそそぎます」
会見でゴーン被告が鳴らしたのは、反撃へのゴングなのかもしれない。(本誌・池田正史、亀井洋志、多田敏男)
※週刊朝日オンライン限定記事