「国民病」とも呼ばれる糖尿病は、全身にさまざまな合併症を引き起こすことが知られている。失明や人工透析、命に関わる心筋梗塞や脳卒中、さらには「がん」との関連も指摘されている。
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血液中のブドウ糖(血糖)は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンによって筋肉などの組織にとり込まれ、からだを動かすエネルギーとなって消費される。インスリンの分泌が少ないか、ある程度分泌されていてもその効きが悪いと、ブドウ糖を筋肉などに十分にとり込むことができない。すると、血液中にブドウ糖がたまり、血糖値が上がってしまう。この状態が糖尿病である(本稿ではすべて2型糖尿病)。
食べすぎや運動不足といった“エネルギーが余る”生活習慣では、使われないブドウ糖により血糖値の上昇を招く。また加齢によって筋肉量が少なくなると消費できるブドウ糖が少なくなり、やはり血糖値が上がりやすくなる。
東京女子医科大学糖尿病センター・センター長の馬場園哲也医師は言う。
「生活習慣が糖尿病の大きな原因であることは確かです。ただし日本人にはインスリンの分泌が少ない体質の人が多く、とくに肥満でもなく、それほど問題のない生活習慣であっても糖尿病を発症する人が珍しくありません」
筋肉のほか、肝臓や脂肪などの組織がエネルギー源としてブドウ糖をとり込むには、インスリンが必要である。これに対して、神経や眼、腎臓などの細胞は、インスリンがなくてもブドウ糖をとり込んでしまう。
「血糖値が高い状態が続けば、これらの細胞に多くのブドウ糖が入り込んで障害を起こし、神経障害、網膜症、そして腎症という3大合併症を引き起こすことになります」(馬場園医師)
糖尿病があると、脚の動脈硬化も進みやすくなる。神経障害でこの状態になると、足病変に気づくのが遅れて壊疽に進み、さらには脚の切断を余儀なくされるケースも出てくる。また、糖尿病性網膜症は、中高年の失明原因の第3位となっている。
■腎症は回復可能 早期発見がカギ
そして糖尿病性腎症は、透析療法を始めた原因疾患の約43%を占め、疾患別の第1位である。
腎症の発症は、糖尿病を発病してから10~15年後とされる。腎症はその進行の程度から1~5期に分けられるが、2期までは自覚症状がない。馬場園医師は、腎症治療では、この2期が大きな境目になるという。
「2期とはアルブミンというたんぱくが少量尿中に漏れ出てくる時期です。2期までに治療を始めれば、3期以降への重症化を止められるだけでなく、腎症の回復も可能です。アルブミンは尿検査で簡単に測定可能であり、患者さんの苦痛もありません。糖尿病そのものの治療と同時に、定期的にアルブミン尿の検査を受けることが、腎症の重症予防のうえで必須です」
また馬場園医師は、腎症から透析を受けるようになった多くの患者に、ある共通項を見いだした。