「透析が必要となるまで腎症が重症になった患者さんのなかには、それ以前に糖尿病の治療を中断してしまった人が多く見られます。自覚症状はなくても、治療を受け続けることが重要です」
一方、比較的大きな、心臓や脳、脚の血管でブドウ糖が増えすぎると、動脈硬化を進め、それぞれ狭心症・心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患のリスクが高まる。
朝日生命成人病研究所糖尿病代謝科部長の高尾淑子医師は、同院に通院していた糖尿病患者約600人を約16年間追跡して、これらの心血管疾患と食後高血糖との関連を調べた。
血糖値は食後にいったん上昇した後、もとに戻る。これが食後2時間たっても、基準値(140ミリグラム/dL)を下回らない場合が「食後高血糖」である。
調査の結果、食後高血糖は、死亡率や、心筋梗塞・脳梗塞といった心血管疾患の発症リスクの上昇と関連している可能性があることがわかった。外来受診時の朝食後2時間血糖値が18ミリグラム/dL上昇するごとに心血管疾患の発症リスクは11%、総死亡リスクは15%上昇していたのである。
このほか、同院に通院していた糖尿病患者約1千人を約19年間追跡して調べた結果から、食後高血糖はがんによる死亡率の上昇と関連している可能性があることも明らかにしている。
糖尿病とがんの関係については、日本糖尿病学会と日本癌学会が合同委員会を設立して提言をおこなっている。それによれば、糖尿病患者は糖尿病ではない人に比べて、肝臓がんで1・97倍、膵臓がんで1・85倍、結腸がんで1・40倍、発症リスクが高かった。
「食後の急激な血糖値上昇は、血管障害やDNA損傷を引き起こすことが知られています。これらは動脈硬化やがんを進行させる可能性があります」(高尾医師)
■重症でなくても 脳・心臓には要注意
心筋梗塞などを引き起こすとなると、よほど重症な糖尿病をイメージしがちだが、高尾医師は発症の時期についてこう指摘する。
「脳や心臓などの大きな血管に起こる合併症の特徴は、糖尿病と正常の間の境界型と呼ばれる“血糖値が高め”の段階からすでに発症リスクが高まるということです」
一般的な健康診断では、血糖値は空腹時に測るため、食後高血糖は見逃されやすい。そこで高尾医師がすすめるのは、血糖自己測定器の利用のほか、市販の尿検査キットによる尿のセルフチェックである。排尿を済ませたうえで食事をとり、食後の最初の尿を調べる。その結果が陽性なら食後高血糖が疑われるため、医療機関で専門的な検査を受けたほうがよい。
このほか糖尿病悪化の兆候として注意すべきなのが、足病変だ。
「当院で約700人の通院患者さんを調査したところ、約6割に、糖尿病に伴う末梢神経障害を疑う検査異常を認めました。末梢神経障害は足病変につながります。普段から足をよく観察し、少しでも異常を感じたら医師に相談してください」(同)
(ライター・近藤昭彦)
※週刊朝日 2020年1月3‐10日合併号
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